明治から昭和初期にかけて活躍した作家である芥川龍之介の代表作『羅生門』
この『羅生門』は映画化されるなどして、芥川龍之介の名を世に広めました。
そんな『羅生門』ですが
「タイトルは聞いたことがあるけどどんな作品かよくわからない」
「1度読んだことがあるけど内容を忘れてしまった!」
なんて方も多いのではないでしょうか。
この記事では羅生門のあらすじやネタバレから羅生門を読むときに知っておくと楽しめるポイントなどを紹介します。
「羅生門」とは?
作者名 | 芥川龍之介 |
発売年 | 1917年5月 |
ジャンル | 短編小説 |
時代 | 平安時代 |
作者名のプロフィール
『羅生門』の作者芥川龍之介は、明治から昭和初期にかけて活躍した作家です。
作品には古典を題材にしたものが多く、教科書でおなじみの『鼻』『芋粥』なども芥川龍之介の作品です。
映画化もされており、小説とともに芥川龍之介の名前を世に広めました。
数々の作品を世に出してきましたが、私生活では心中未遂や自殺を図っています。
最後は服毒自殺で帰らぬ人となってしまいました。
享年36歳(数え年)でした。
羅生門の特徴
羅生門は、芥川龍之介が大学在学中、まだ無名作家の頃発表されたものです。
芥川龍之介は、古くからある物語をもとに、たくさんの作品を発表していて、この羅生門も『今昔物語』の中の物語をもとに作られました。
短い物語なのですが、短い内容の中にもしっかりと人の心の移り変わりが描かれていて、物語の最後の一文では、読んだ人それぞれに問いかけをしているのが特徴です。
羅生門の主要登場人物
下人 | 短い鬚の中に赤く膿をもったニキビのある頬 |
老婆 | 背が低く痩せた白髪頭の猿のような老婆 |
羅生門の簡単なあらすじ
舞台は平安時代の京都にあった羅生門です。
ある日の夕暮れの雨の中、羅生門の下で雨宿りをしていた下人がいました。
この下人は、主人から解雇を言い渡されて、途方にくれながら雨が止むのを待っています。
行くところも帰るところもない下人は、羅生門の中に入り女の死体から髪の毛を抜いていたひとりの老婆と出会います。
そんな老婆に憎悪を抱き、下人は老婆を押さえつけましたが、老婆から生きるために悪事を働くという、悪事を正当化した言葉を聞きます。
悪事の正当化に勇気をもらった下人は、自分もそうしなければ餓死してしまうと、老婆の衣を奪い駆け去ってしまうのでした。
羅生門の起承転結
【起】羅生門のあらすじ①
平安時代の京都にある荒れ果てた羅生門の下に、主人から解雇を言い渡されて、帰るとこも行くところもない下人が雨宿りをしていました。
このころの京都は、地震や火事、飢饉など災いが続いて荒れ果て、羅生門には鬼が住むと人々から恐れられていました。
主人から暇を言い渡された下人は、明日の暮らしをどうにかしようと、とりとめのないことを考えて、雨の音をくともなく聞いていたのでした。
【承】羅生門のあらすじ②
主人から解雇を出されて、仕事も帰る家も、行くところさえ無くなった下人は、手段を選んでいる場合じゃない、盗人になるしかないと考えます。
しかし、その考えにも迷いがでて、積極的に肯定する勇気がでませんでした。
考えを巡らせているうちに、夕冷えも強まり寒さに震えた下人は、一晩楽に寝られそうな場所を探します。
幸い、門の上の楼へ上がるはしごを見つけました。
上には誰かいてもどうせ死人だけだと、下人ははしごをのぼりますが、そこには死人ではない生きた人間がうずくまっていたのです。
【転】羅生門のあらすじ③
下人がうずくまっている人間をみると、その人間は檜皮色の着物を着た、背の低い、猿のような老婆でした。
老婆は右の手に、灯をともした松の木切れをもって、たくさんの死骸の一つであった長い髪の女の死骸を覗き込むように眺めていました。
そして老婆は死骸の首に両手をかけると、長い毛を一本、また一本と抜き始めたのです。
それをみた下人の心は、さっきまで盗人になるか餓死するかという迷いは消え、今なら迷わず餓死を選ぶ、というほどに老婆に対する憎悪が膨れ上がっていったのです。
下人はなぜ、老婆が死人の髪の毛を抜くかはわからなかったのですが、死人の髪の毛を抜く行為が、下人にとっては許されることではない「悪」となっていたのでした。
【結】羅生門のあらすじ④
下人は老婆に声をかけます。
驚いた老婆は逃げようとしますが、下人は老婆を押さえつけ死人の髪の毛をなぜ抜いていてたのか問いただします。
老婆は、かつらにするために髪の毛を抜いていた、生きていくために死人の髪の毛を抜いていたと言います。
老婆は、この遺体の女も餓死をしたくない思いで、蛇を干し魚と偽って売っていた、生きていくためには仕方がない、わしも餓死をしたくないから、この女の髪をかつらにするために抜くのだ、という意味のことを答えました。
その理由をきいていた下人の心には、さっきまで考えていた気持ちとは逆の、勇気が湧いてきました。
それは生きるためには盗人になる勇気です。
そして下人は老婆に「己が衣剥しても恨むまいな。己もそうしなければ、餓死をする体なのだ」といい老婆の着物を剥ぎ取り、足にしがみつごうとする老婆を死骸の上へけりたおして、はしごを駆け下りていきました。
しばらくして体を起こした老婆は、門の下を覗き込みましたが、外はただ黒々とした夜があるばかりでした。
そして下人の行方は誰も知りませんでした。
羅生門の解説(考察)
羅生門は悪であることでも、生きていくために自分を正当化してしまう、下人の心の移り変わりが書かれています。
下人は最初は仕事を無くして住む場所もなくなった状態で、餓死するか盗人になるか迷っていました。
しかし、老婆の死骸から髪を抜く行為を見て憎悪を覚えて、盗人ではなく餓死するほうを選ぼうと心が動きますが、老婆の、「生きていくためには悪でも仕方がない」という悪の正当化された言い訳を聞いて、生きるためには盗人になるという方を選んでしまいます。
このように、人の心は自分の思いひとつでどうにでもなる、ということがこの物語には書かれています。
羅生門の作者が伝えたかったことは?
作者は人間の本質を伝えたかったのではないのでしょうか。
ひとつの出来事でも、自分の都合のように置き換えれば悪でも善に変わってしまいます。
下人が善と悪の間で揺れ動きながら、最後には「餓死したくない、したくないから盗人になる」という悪を選んだように、人は自分の都合で悪を善に変えてしまうのだと、この物語から考えられるのではないでしょうか。
羅生門の3つのポイント
ポイント①羅生門はどんな門?
羅生門は、京都の朱雀大路の南の端にあった門で、羅城門ともいわれ「高さ21メートル、幅32メートル」もありました。
物語の中では、羅生門は荒れ果て楼には死骸が投げ込まれ、鬼が住むと書かれていました。
ポイント②下人はどこにいったのか?
この物語の中で有名な一文「下人の行方は、誰も知らない」ですが、さて下人はどこにいったのでしょうか。
下人は鬼が住むと噂される羅生門から、老婆の着物をもって駆け去りました。
盗人になった下人は、その後どのような生き方をしたのか、どうなったのかは読者にゆだねられているのかもしれません。
ポイント③勇気の使いどころ
下人は仕事も帰る場所もなく、餓死するか盗人になるか迷っていました。
老婆と出会った場面では老婆を憎悪する心から、餓死してもいいと気持ちが傾きますが、老婆の自分を正当化する言葉から盗人になる勇気が出てきてしまいます。
勇気の使いかた次第で今後のことが決まってしまう恐ろしさが、この物語の中で書かれています。
羅生門を読んだ読書感想
下人の心理状態が、短い物語の中にしっかりと書かれていました。
物語の描写は決して明るいものではなく暗いなかで語られ、最後まで雨の中にいるような気持になりました。
下人の行く先は語られていませんが「下人の行方は、誰も知らない」という文がとても深い意味を持って書かれてるような、決して明るいものではないように思いました。
羅生門のあらすじ・考察まとめ
鬼が住んでいるとされる羅生門で、下人と老婆のやり取りが書かれています。
下人は盗人になる勇気は最初のうちはありませんでしたが、老婆の生きていくため、餓死しないためには「悪ということでもする」という、自分を正当化する言い訳に盗人になる勇気が出てきてしまいます。
盗人になった下人の行方は書かれていません。
書き表さないことで、「物語の余韻」と「どこまでも続く下人の闇」を表したのかもしれません。