「悪の教典」や「新世界より」など、映像化された作品も多数ある貴志祐介。
今回は彼の隠れた名作である「天使の囀り(さえずり)」をご紹介します!
この作品は若き日の貴志祐介の実力を感じることが出来るのは勿論のこと、ホラー小説の位置づけでありながらサスペンス要素も多分にあり、推理小説好きな人も楽しめる作品です。
この本が書かれた90年代の出来事を彷彿とさせる部分もあり、当時を知る方も楽しんで読めること間違いありません。
今回はそんな天使の囀りのあらすじ・ネタバレや考察からより楽しむための3つのポイントなどを解説していきます。
「天使の囀り」とは?
作者名 |
貴志祐介 |
発売年 |
1998年 |
ジャンル |
ホラー小説 |
天使の囀りの作者である貴志祐介のプロフィール
大阪府大阪市出身。
京都大学経済学部卒業。
大学時代より文章を嗜み1996年に「十三番目の人格 ISOLA」にて日本ホラー小説大賞の佳作に入選し、小説家デビュー。
翌97年には「黒い家」で大賞を受賞しています。
近年では「硝子のハンマー」といったミステリー、「新世界より」ではSF小説の分野に活躍の場を広げる実力派の作家です。
高校のクラスを舞台にした「悪の教典」では人気俳優である伊藤英明を主人公に実写映画化され、話題を呼びました。
天使の囀りの特徴
本作の題名である天使の囀りは、物語の中で大きなカギを握っています。
一見すると穏やかなタイトルに見えますが、この声を聞いた人々は次々に不可解な死を遂げます。
物語が進むにつれてその理由が見えてくるところも本作の魅力です。
天使の囀りの主要登場人物
北島早苗(きたじまさなえ) |
精神科に勤務する女医。影のある男性を好む傾向がある。 |
依田健二(よだけんじ) |
寄生虫研究の分野の教授。妻を事故で失った悲しい過去を持つ。北島早苗とともに不審死の原因を探る。 |
高梨(たかなし) |
北島早苗の恋人。作家として名声があったが、アマゾンからの帰国後、気がおかしくなり自殺する。 |
蜷川(にながわ) |
高梨とともにアマゾンに出向いた教授。 巧妙な手段で寄生虫を日本に持ち込み、ばらまく。 |
萩野新一(はぎのしんいち) |
ゲーム、PCが好きなオタクの青年。 とあるセミナーに誘われて参加するが不幸な最期を遂げる。 |
天使の囀りの簡単なあらすじ
ブラジルのアマゾンに行った人たちが相次いで不審な死をとげます。
主人公の北条早苗は恋人が巻き込まれたことから関心を抱き、この謎に迫っていきます。
そして、その背景には複雑な闇が隠されていました。
天使の囀りの起承転結
【起】天使の囀りのあらすじ①
北島早苗の恋人である高梨が送信してくるメールから物語が始まります。
アマゾンで大学の教授らとともに研究を行いますが、そこで猿の肉を食べたことでウイルスに感染します。
帰国後は以前とうって変わり、「死」を恐れなくなったと発言したことで主人公である北島早苗は別人のように感じ困惑します。
同じ頃、フリーターの青年である萩野真一はゲームを通じてオフ会に参加します。
【承】天使の囀りのあらすじ②
高梨は「天使の囀りが聞こえる」といい、最終的に自殺します。
不審に思った北島早苗は調査を開始します。
調べてみると、高梨とアマゾンで行動をともにしたメンバーが不審な死を遂げていることに気が付きました。
その頃、萩野真一は「地球の子どもたち」というオフ会に参加します。
彼は教育熱心な母親のもとで育てられましたが、親からの教育熱に耐えきれずに学校に行かなくなってしまいました。
そんなおり、オフ会で出会った少女に気を惹かれます。
美登里ちゃんと名づけた女の子と出会い、その後人生が好転したと感じます。
しかし、これが悲劇の始まりでした。
【転】天使の囀りのあらすじ③
北島早苗は調べを進めていく中で線虫の研究を行っている依田健二と出会います。
彼との出会いで高梨たちの不審死はブラジル脳線虫の仕業であることを見つけました。
その後、「地球の子どもたち」の存在を知り、駆けつけるとそこには行方不明のはずの蜷川教授を見つけ、黒幕だと確信します。
その一方で、萩野真一は嫌いなはずの蜘蛛を大量に食べ、死を遂げます。
【結】天使の囀りのあらすじ④
北島早苗は依田健二とともに那須にあるセミナーハウスに向かいます。
その道中で依田健二の過去に触れ、関心をそそられます。
セミナーハウスに到着すると、多数の変異死体を発見します。
その後、依田健二と結ばれますが、同時に彼が感染していることに気がつきます。
天使の囀りの解説(考察)
当時の世相を反映したテーマが散りばめており、当時を知る読者を引きつける内容であったことは間違いないでしょう。
徐々に天使の囀りが聞こえる理由が明らかになっていく過程に加えて精神科医の北島早苗とフリーターの萩野真一、全く関係のない二人の話が交互に繰り返され、「なぜ?」と読者に思わせるその話法は貴志祐介の実力が発揮されていると感じます。
天使の囀りの作者が伝えたかったことは?
時代背景的に宗教や自殺にフォーカスが当たっていたことを考えると、バブル経済の終焉とともに経済が停滞し、人々の間に閉塞感が漂っていた負の側面をホラーという形で具現化し、世間に伝えたかったのかもしれません。
現実に実在した団体と類似した団体が登場してくるのはその所以でしょう。
天使の囀りの3つのポイント
ポイント①エイズといった社会問題となり得る病気を彷彿とさせる感染症の発現
作中では謎の感染症が猛威を振るいますが、同時に当時話題となっていたエイズ感染者の描写も描かれます。
これによって、読み手に既存の感染症の一種なのではないかと勘ぐらせる引っ掛けとなっていると見て間違いないでしょう。
実際には猿を介した微細な虫が原因になっていることもリアリティを感じさせる設定で読者の恐怖感を上手に煽っており、筆者の文才が感じられます。
ポイント②怪奇現象の中で薄っすらと描写される人間の友情と愛
本作では北島早苗と萩野新一の二人の視点で描かれますが、どちらの周囲の人間も徐々に謎の感染症に侵され異常な存在へと化していきます。
その中で、いつ途切れるかも分からない脆さ満点の友情と愛に二人が翻弄されて苦悩するのも大きな見どころです。
読んでいく中で友情や愛とは一体何なのか、非常に考えさせられること間違いありません。
ポイント③実際にあった出来事を彷彿させる内容が複数ある
アマゾンの熱帯雨林の縮小や、謎の宗教の存在をはじめとして所々に90年代当時の出来事を彷彿とさせる事象が登場します。
こうすることによって内容を読者によりリアリティを持って想像させる狙いがあることは間違いないでしょう。
そして文章全体から溢れ出るユーモアの薄さや殺伐とした雰囲気はバブルが崩壊し、先行きが見えない当時の世相を鏡のように映し出している気がしてなりません。
天使の囀りを読んだ読書感想
読み終わって非常にもどかしさを感じました。
なぜなら、甲とも乙とも判断しにくいラストで人間の脆さを痛感させられたからです。
90年代当時の病気や宗教、金融、教育などの描写が散りばめられ、当時の人々の閉塞感を少しばかり理解することができた気がします。
天使の囀りのあらすじ・考察まとめ
ホラー小説ではありながらも90年代当時の世相が散りばめられており、社会派な一面もあり当時の社会を学ぶことが出来る小説です。
当時を知っている方は勿論のこと、知らない方が読んでも多くの発見を得ることが出来ること間違いありません。
是非一度、読んでみてくださいね。