2020年に米津玄師が発表した「カムパネルラ」。
他にも、going steadyの「銀河鉄道の夜」。
お笑いでは、ラーメンズの「銀河鉄道の夜のような夜」など。
現在に至るまで沢山の人に愛され、創作活動の源泉にもなっている作品、「銀河鉄道の夜」。
そんな宮沢賢治の作品ですが、様々な造語が散りばめられていて難解に感じる人もいるかもしれません。
そんな人のために、宮沢賢治の書いた「銀河鉄道の夜」について解説していきます。
「銀河鉄道の夜」とは?
遠洋漁業で長期不在の父親と病気で寝込んでいる母親の代わりに、朝夕アルバイトをしているジョバンニ。
あるお祭りの日に、辛い出来事が重なったジョバンニは、悔しさを堪えて1人町外れの丘に駆け出します。
孤独を感じつつ星を眺めていると、“銀河ステーション”という声が聞こえてきました。
するとあたりがパッと強い光に遮られたかと思うと次の瞬間、ジョバンニは銀河鉄道に乗っていたのです。
そこから不思議な銀河鉄道の旅が始まります。
作者名 |
宮沢 賢治 |
発売年 |
1934年 |
ジャンル |
童話 |
時代 |
明治末期~昭和初期(1896年~1933年) |
宮沢賢治のプロフィール
- 岩手県花巻市(旧稗貫郡川口村)出身
- 作品/「注文の多い料理店」「風の又三郎」「やまなし」など
- 造語を作るのが得意
- 地質学、動植物、天文学、宗教など様々な分野への関心が高い
家族や友人とのエピソード
宮沢賢治の母親は、賢治が幼い頃から「人は他人のために、何かしてあげるために生まれたんだよ。」と言い聞かせていたと言われています。
また、良き理解者だった妹のトシが亡くなる朝のことを、「永訣の朝」「無声慟哭」という詩に書き綴っています。
このことが、後に宮沢賢治の世界観に影響を与えたのではないかと考えられています。
見出し3:銀河鉄道の夜の特徴
- 宮沢賢治の造語が出てきて難解な部分あり
今日に至るまで色々な見解があります。(例)三角標、天気輪など(※後に意味を含め説明します。)
- 銀河鉄道とは、北上川を走る岩手軽便鉄道と天の川が1つになった風景のこと
空飛ぶ鉄道がイメージされますが、空を飛んでいるわけではありません。
- 時代によって登場人物に差がある
銀河鉄道の夜は、宮沢賢治の死後に友人らによって世に広まった作品のため、時代によって登場人物に差があります。
銀河鉄道の夜の主要登場人物
ジョバンニ |
主人公。 性格:貧しくて内気な少年。空想が好き。 家族:病気の母親、漁師の父親(長期不在)
アルバイトをしていて遊ぶ暇がなく、クラスで孤立気味。 |
カンパネルラ/カムパネルラ |
クラスメイトであり、親友。 性格:お金持ちの優等生。人気者。ジョバンニに同情している。
ジョバンニの父親とカンパネルラの父親の仲が良かった。 |
ザネリ |
いじめっ子のクラスメイト。 |
銀河鉄道の夜の簡単なあらすじ
星祭りの日に、辛い出来事がジョバンニを襲います。悔しさやら悲しみで、1人お祭りとは反対の丘に向かったのです。
星を眺めていると、突然辺りが強く光りました。
気付いたらジョバンニはカンパネルラと、銀河鉄道の車内に乗っていたのです。
不思議なことが起こりながらも、最終的に車内はジョバンニだけになりました。
突然辺りの風景は、銀河鉄道に乗る前の丘に戻り、ジョバンニは家路を急いでいると、橋に人だかりができていました。
ジョバンニは、溺れたザネリを助けたカンパネルラが行方不明になっていることと、父親がもうすぐ帰ってくることを聞き、複雑な思いで自宅を目指すのでした。
銀河鉄道の夜の起承転結
見出し3:【起】銀河鉄道の夜のあらすじ①
(銀河鉄道に乗るまでの、ジョバンニの生活。)
「天の川が何でできているか知っていますか?」という先生の質問に、ジョバンニは答えられずにいるところから舞台は始まります。
ジョバンニは、遠洋漁業で長期不在の父親の代わりに、朝夕アルバイトをして家計を支えていました。
そのため、学校の友達と遊ぶことができず、クラスで孤立していたのです。
その日は、町で祭りがあるので放課後に、みんなは楽しげに話していました。
それを横目に、ジョバンニはアルバイトへ向かうのです。
バイト先でもジョバンニは、虫眼鏡君と呼ばれからかわれていました。
アルバイト後には、砂糖を買って帰ります。
病気の母親のために、牛乳に入れて飲んでもらおうと思いましたが、その日に限って牛乳の配達が漏れていたのです。
ジョバンニは、お母さんと雑談をしてから牛乳を取りに向かうことにしました。
しかし、担当者がいないので後でまた来てくださいと追い返されてしまったのです。
すると、前からお祭りに行くクラスメイトに出会い「お父さんからラッコの上着が来るよ」とからかわれてしまいます。
そんなジョバンニを気の毒そうに見ているカンパネルラ。
ジョバンニは、悔しさと悲しみと色々な感情で顔を真っ赤にしながら、その場から駆け出し丘の上へやって来ました。
そこで1人、星を眺めていると「銀河ステーション」と、聞こえてきたのです。
すると辺りがパッと明るくなり、気付いたら鉄道の座席に座っていました。
【承】銀河鉄道の夜のあらすじ②
(銀河鉄道に乗ってからの旅。)
不思議に思って辺りを見ると、カンパネルラが座っていました。
カンパネルはジョバンニに、みんなはここに居ないこと、ザネリはお父さんが迎えにきて帰ったことを話しました。
初めは不思議そうにしていたジョバンニも綺麗な風景にだんだん楽しくなってきたのです。
しかし、急にカンパネルラが「お母さんは僕を許してくれるだろうか。」と呟くので、ジョバンニは母親を思い出します。
それから「カンパネルラのお母さんはそんな酷い人じゃないよ」と答えると、「本当にいいことをしたら、それが幸せなのだからお母さんは許してくれるだろう」とカンパネルラは言うのです。
そうこうしていると、外に十字架が見えてきて辺りにはバイブルを持った人や、数珠の水晶を持った人がハルレヤ(ハレルヤ)と言いながら祈っているのでした。
そして、鉄道は次の白鳥の駅に向かいます。
【転】銀河鉄道の夜のあらすじ③
(途中で洋服を着た人が現れ、銀河鉄道は終着点へ。)
途中の駅で降りたり色々な人と出会いと別れを繰り返したりしながら、ジョバンニはカンパネルラと銀河鉄道の旅を続けていました。
すると、車掌が切符を拝見しにやってきたのでジョバンニは慌てて、上着に入っていた折り畳んである紙を渡したのです。
それは、どこまででも行ける切符でした。
鉄道が鷲の停車場を過ぎると、ずぶ濡れの青年と幼い姉弟が急に現れたので、話を聞いてみると、乗っていた船が氷山にぶつかって沈んでしまたようでした。
長らく、列車に揺られていると川の向こう岸に真っ赤に燃える光があったのです。
どうやらそれはサソリらしく、女の子はなぜサソリが燃えているのかを話し出しました。
そして列車は、終着点のサザンクロスに着きジョバンニとカンパネルラ以外は降りていったのです。
外を見てみると十字架に向かってみんな列をなして膝まずいているのでした。
ジョバンニは不安に思い、何度もカンパネルラに一緒にいようと話し掛けます。
しかし、気付いた時にはカンパネルラの姿はりませんでした。
【結】銀河鉄道の夜のあらすじ④
(銀河鉄道を降りてからのジョバンニ。)
ジョバンニはいつの間にか丘にいました。
不思議に思いながらも、牛乳を取りに行って家路を急いでいると、橋の上に人だかりができていました。
焦る気持ちを抑えながら話を聞くと、溺れたザネリを助けたカンパネルラが行方不明だと知るのです。
カンパネルラの父親が、もう助からないだろうこと、ジョバンニの父親がもうじき帰ってくることを教えてくれました。
ジョバンニは、色々な感情でごちゃ混ぜになりながらも、母親に牛乳を早く渡したいのと父親が帰ることを伝えたいのとで、その場から駆け出したのです。
銀河鉄道の夜の解説(考察)
ジョバンニは空想(逃避)癖がありました。
日々の辛さから逃げたい(死にたい)という思いが、死者を乗せる銀河鉄道とリンクしたのではないかと思います。
そして列車の中で様々な話を聞いて、まことの幸せを探すことが、ジョバンニの生きる希望になったのです。
現実に戻ると親友のカンパネルラが亡くなってしまったことを知ります。
助けられなかった悔しさ悲しさに加え、父親がもうすぐ帰ってくることの喜び、母親への慈愛など様々な感情がわき上がり、気持ちが抑えられず駆け出したのです。
宮沢賢治にとっての「銀河鉄道の夜」
妹トシの死と、父親との宗教観の対立への葛藤と許しを描いたと考えています。
宮沢賢治は熱心な法華経信者であったと言われています。
妹トシの葬儀は代々信仰している浄土真宗で行うことになったため、賢治は参列しませんでした。
代わりに遠くから、自分の信じる宗教で弔ったのです。
そのことが、賢治の心残りだったのかもしれません。
バイブルを持った人も数珠を持った人も等しく銀河鉄道に乗ってハルレヤ(ハレルヤ)を歌って十字架に向かうことが、妹への弔いと父親への許しのようにも思えます。
銀河鉄道の夜の作者が伝えたかったことは?
宮沢賢治が伝えたかったことは、“まことの幸とは何か”だと思います。
銀河鉄道の夜で特に印象的な、サソリの話しがあります。
虫を殺して食べていたサソリがある日、いたちに見つかってしまいます。
一生懸命逃げているうちに井戸で溺れたサソリはこう祈りました。
どうして私はこの体をいたちにくれてやらなかったのか。
そうすればいたちも1日生き延びただろうに。
どうか神様、次はまことの幸のためにこの体を使って下さい。
宮沢賢治の中で、自己犠牲の精神こそが、美しく尊く、有り難いことであり幸せであり、そう生きたいと願っていたのだと感じます。
銀河鉄道の夜の3つのポイント
ポイント①圧倒するほど美しい風景描写
- 『青白く光る銀河の岸に、銀いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てている
- 『銀河の水は、水素よりももっとすきとおっていた』
など、色とりどりの風景描写が美しく、文字を読んでいるだけで色味や形が伝わってくるのでぜひ原作を手にしてみて下さい。
ポイント②宮沢賢治が衝撃を受けたタイタニック号の事故
宮沢賢治が16歳の時に起きた、タイタニック号の事故。
そのことに胸を痛めたであろう描写に、心が痛みます。
鷲の停車場を過ぎたあたりで急に現れた青年と姉弟。
ジョバンニの感情の動きに切なくなります。
ポイント③イーハトーブを代表する世界観
宮沢賢治は、岩手県をモチーフにした理想郷をイーハトーブと名付けていました。
そういった宮沢賢治オリジナルの世界観が、不思議な魅力を感じさせます。
- 星めぐりの歌
- ラッコの上着
宮沢賢治オリジナルの歌
密漁=犯罪者
(ザネリがジョバンニをからかうときに使う言葉)
- 活字拾い
棚に入ったハンコのようなものを探し出す作業
(ジョバンニのアルバイト)
- 三角標(宮沢賢治の造語)
測量をするために建てられたもの
- 天気輪(宮沢賢治の造語)
仏教由来の建物、天文現象など説が割れている
銀河鉄道の夜を読んだ読書感想
読み終わった後に優しい気持ちにさせてくれる本です。
また、美しい幻想風景の描写に、本当に銀河鉄道の旅をしているかのような、わくわく感を味わうことができます。
それに加えて、童話とは思えないぐらいに読みごたえがあるので、1度手にとってみることをおすすめします。
銀河鉄道の夜のあらすじ・考察まとめ
貧しく孤独なジョバンニが、祭りの日に不思議な体験をするのです。
親友であるカンパネルラと一緒に銀河鉄道の旅を通してジョバンニが得たものとは。
そして銀河鉄道を終えたジョバンニに待っていたものとは。
宮沢賢治の理想郷がまさにこの「銀河鉄道の夜」の世界なのだろうと感じさせてくれます。
カンパネルラの行動や、サソリの話しから自己犠牲の尊さを学ぶことができます。
まことの幸を探しに、あなたも銀河鉄道に乗ってみませんか。