「藪の中」とは、数々の傑作を残した芥川龍之介による短編小説です。
ある藪の中で起きた殺人事件に対し、尋問された7人の証言をまとめた物語です。
現在も真相が明らかになっておらず、多くの謎を残しているこの作品。
果たして、「藪の中」は何をテーマとした作品なのでしょうか?
そして、この物語の仕掛けとは?
作者がこの作品を通して伝えたかったことは?
今回は、そんな「藪の中」のあらすじや感想から考察までを詳しく解説していきます!
「藪の中」とは?
「藪の中」とは、芥川龍之介による短編小説です。
平安時代に、ある藪の中で起きた殺人事件を舞台とした作品です。
事件の関係者(当事者は3人)である計7人の証言により、物語は進んでいきます。
しかし当事者の証言は食い違っており、事件の真相は明らかになりません。
「藪の中」という言葉の語源にもなっており、現在もその真相について論議が交わされている作品です。
作者名 |
芥川龍之介 |
発売年 |
1922年 |
ジャンル |
短編小説 |
時代 |
平安時代 |
芥川龍之介のプロフィール
「藪の中」の作者である芥川龍之介は、明治25年7月24日に東京で生まれました。
数々の傑作を残しており、教科書に掲載されているものもあります。
「今昔物語集」や「宇治拾遺物語」などの古典を題材にしたものも多く、元の作品を知るとより楽しむことができます。
芥川は35歳の若さで薬物自殺しており、短い生涯を終えました。
その動機としては、「唯ぼんやりした不安」が原因であり、自身の精神障害も作品へ影響を与えていたそうです。
藪の中の特徴
「藪の中」は、検非違使(裁判官)が事件の関係者に尋問をしていく形式で物語が進んでいきます。
まずは、木樵り・旅法師・多襄丸を捕縛した男・真砂の母親という4名の関係者により、事件の証言がされていきます。
その後は、殺害された武弘・妻の真砂・容疑者の多襄丸の3名の当事者により事件の状況・犯人が語られます。
当事者の証言には食い違う部分があり、辻褄が合わないため謎は解けない仕掛けになっています。
藪の中の主要登場人物
金沢武弘 |
若狭の侍で、26歳。藪の中で死体となって見つかった。 |
真砂 |
武弘の妻。19歳で、勝気な女性。 |
多襄丸 |
女好きの、悪名高い盗人。 |
藪の中の簡単なあらすじ
ある藪の中で、金沢武弘という一人の男が死んでいました。
検非違使は、第一発見者や容疑者を捕らえた者など、事件の関係者に証言をしてもらいます。
そして容疑者とされる男、被害者の妻、霊媒により降ろされた被害者も証言をしますが、話は食い違っています。
結局真相は明らかにならず、「藪の中」で起きた事件は謎のまま終わります。
藪の中の起承転結
【起】藪の中のあらすじ①
ある藪の中で、金沢武弘という一人の男が死んでいました。
検非違使は、事件の関係者に証言をしてもらいます。
第一発見者の木樵りは、死体は藪の中で倒れており、周りに女ものの櫛と縄が落ちていたと言います。
事件の前日夫婦を目撃した旅法師は、女の顔は見えなかったが、男は太刀と弓矢を持っていたと告げます。
容疑者とされる多襄丸を捕らえた男は、多襄丸は馬に乗り、武弘の太刀と弓矢を持っていたと言います。
真砂の母親は、事件後に行方不明になった真砂のことを心配し、武弘を殺した多襄丸を許せないと悲しみます。
【承】藪の中のあらすじ②
捕らえられた多襄丸は事件について白状します。
武弘を殺したのは自分で、真砂のことは殺してないといいます。
真砂の女菩薩のような顔に惹かれた多襄丸は、真砂を奪うためにうまく口車にのせ、2人を山の中へ誘い込みます。
武弘を縛り付けた後は真砂を襲い、逃げようとします。
しかし、真砂の「どちらか一人死んでほしい、生き残った方についていく」という言葉を聞き、武弘を殺します。
真砂はその隙に逃げ出しており、自分もその場を後にしたといいます。
【転】藪の中のあらすじ③
事件後、清水寺に駆け込んでいた真砂は懺悔します。
多襄丸に襲われた後、武弘のもとへ駆け寄ろうとしますが蹴られて転んでしまいました。
その時の夫の瞳には蔑みの色が浮かんでおり、真砂はあまりのショックで気絶します。
目覚めたときには多襄丸は消えており、武弘と共に死ぬことにしました。
そして、足元にあった小刀で武弘を殺害し縄を解きました。
その後はどうしても死に切ることができなかった、これからどうすればよいのかと涙を流すのでした。
【結】藪の中のあらすじ④
霊媒により、巫女の口から武弘が証言します。
真砂は多襄丸に襲われた後「妻になれ」と言われ、それに承諾します。
そして2人は藪の中から出ていきますが、真砂は多襄丸に「夫を殺してください」と頼みす。
すると多襄丸は真砂を蹴飛ばし、「あの女を殺すか助けるか、決めろ」と言います。
武弘が迷っているうちに真砂は逃げ、多襄丸も縄を切り姿を消してしまいます。
武弘は縄を解き、落ちていた小刀で自害します。
そして意識を失う直前、誰かが小刀をそっと抜いて逃げていき、武弘は絶命しました。
藪の中の解説(考察)
第一発見者や事件の当事者の話を聞いても、すっきりとしない結末になっています。
現代にいたるまで多くの考察がされていますが、その謎は解明することができていません。
芥川による絶妙な仕掛けにより、藪の中の事件は解決がされないままです。
殺したのは誰なのか?なぜ辻褄が合わないのか?
謎が多く残りますが、様々な考え方ができる面白さがある作品です。
藪の中の作者が伝えたかったことは?
この物語の最大のポイントは、材料があるにもかかわらず謎が解明されない点です。
当事者の証言に食い違いがあるという事態により、事件の解決ができません。
この食い違いは、単なる記憶違いなのか、悪意や善意があってのものなのかも分からないままです。
現実の事件にも、このような裏側がある可能性を示したかったのかもしれません。
藪の中の3つのポイント
ポイント①誰かが誰かをかばっている?
事件の当事者の3人は、それぞれ自分が武弘に手にかけたと言っています。
これにより証言が食い違い、武弘を殺した真犯人が分からなくなっています。
ここで妙な点は、罪を擦り付け合うのではなく、各々が犯行を自白しているところです。
誰かが誰かをかばおうとしているのか?その可能性を考えるとさらに考察を深めることができます。
ポイント②事件をかき乱しているのは「欲望」
事件の発端は、多襄丸が武弘から真砂を奪いたいという欲望からでした。
その後も真意は明らかになりませんが、それぞれ自分の恥や欲を優先させた行動をとっています。
この事件は思いやりや優しさといったものは存在せず、ひたすら恐ろしい欲望によって包まれています。
人間の根本にあるものにより、3人が破滅へ向かったことがわかります。
ポイント③小刀を抜いたのは誰?
武弘は、最終的には自害したと告白しています。
しかし、小刀を自分の胸に刺した後、誰かが小刀を抜いたと言っています。
正体は明らかになりませんが、真砂か、多襄丸か、そのほかの人物か、色んな可能性があります。
事件の当事者のどちらかが小刀を抜き、「自分が殺した」と言っていることも考えられます。
藪の中を読んだ読書感想
「藪の中」の語源にこのような物語があるとは知らず、驚きました。
結局真相は分からないままですが、色んな考察ができると思います。
ですが、当事者それぞれの証言がしっかりとしており疑う余地がないため、完璧に解明するのは難しそうです。
真犯人が分からないという、この物語の仕掛けを作った芥川の才能に感動しました。
藪の中のあらすじ・考察まとめ
1人の男の死体は、物語の真実を語ることはありません。
読者は事件の当事者たちの話を聞いても、謎を解明することはできません。
果たして、藪の中では何が起きていたのでしょうか。
謎が謎を呼ぶ、芥川の傑作短編小説に触れたい方はぜひ読んでみてください!