あなたは、現代社会って生きにくいなと思ったことはありませんか?
現代社会では、男女の差や年齢による決めつけなど、自由に生きるには邪魔な要素が数多く存在します。
自由に生きることを選べば、変人というレッテルを貼られることもあるかもしれません。
今回ご紹介する「コンビニ人間」は、コンビニアルバイトとして生きる女性を描いた作品です。
この記事では、「コンビニ人間」のあらすじやネタバレから感想・考察まで徹底的に解説していきます。
「コンビニ人間」とは?
小さな頃から周りの子たちと違う言動を繰り返してきた主人公は、大学時代にコンビニアルバイトを始めました。
全てマニュアル化されたコンビニアルバイトを通じて、主人公は「普通」の人間として社会に溶け混むように努力します。
コンビニに自分の居場所を見つけた主人公でしたが、年齢を重ねるごとに周りから「普通」として認識されなくなってしまいました。
そんな時ある男性と出会い、主人公はコンビニアルバイトを辞めて就職活動を始めます。
面接に行く途中で立ち寄ったコンビニで、主人公は驚きの行動に出ました。
現代社会で「普通」に生きることの難しさを描いた作品です。
作者名 |
村田沙耶香 |
発売年 |
2016年 |
ジャンル |
現代文学・純文学 |
時代 |
現代 |
村田沙耶香のプロフィール
村田沙耶香 1979年生まれ
日本の小説家であり、エッセイストです。
千葉県出身で、10歳のころから執筆活動を始めたそうです。
両親の教育方針に従い、ピアノを習い、清楚な服装に身を包み、女子大に進学しました。
2003年、「授乳」で第46回群像新人文学賞を受賞しました。
2016年、「コンビニ人間」で第155回芥川賞を受賞しました。
村田沙耶香の代表作
村田沙耶香の代表的な作品は、「授乳」「消滅世界」「殺人出産」などです。
今ある世界の常識を覆すような作風で、現代社会への問題提起の意識が感じられます。
女性を主人公にした作品が多く存在します。
作家仲間からは「クレイジー沙耶香」と呼ばれるほど、斬新な価値観を持っているようです。
コンビニ人間の主要登場人物
古倉恵子 |
36歳独身、社会人経験はコンビニアルバイトのみです。昔から少し変わった考えを持っていました。 |
白羽さん |
古倉の同僚です。現代社会に強い反感を持っています。 |
店長 |
古倉の職場の8人目の店長です。きびきびと働く30代です。 |
麻美 |
古倉の妹です。結婚して子供もいます。恵子が社会に溶け込めるように協力しています。 |
コンビニ人間の簡単なあらすじ
古倉恵子は、昔から「普通」の子になることができず、父や母・妹に迷惑をかけてきました。
しかし、大学時代に始めたコンビニアルバイトが性に合っていたようで、大学卒業後もアルバイトとして同じ店舗で働きました。
それから18年が経ち、気がつけば36歳独身アルバイト生活、恋愛経験なしの女になっていました。
同僚たちからは頼りにされていましたが、両親や友人からは就職活動もせず、結婚もしないことを心配されていました。
ある時、元同僚の白羽さんが家に転がり込んできました。
彼は男に寄生する女という生き物が嫌いで、自分が女に寄生してやろうと考えていたようです。
古倉恵子は、自分が男性と同棲していることにすれば面倒な質問から逃れられると思い、彼を「飼う」ことにしました。
そして、彼に言われるがままコンビニアルバイトを辞め、就職活動を始めました。
やっとこぎつけた面接に向かう途中で、古倉恵子はあるコンビニに立ち寄ります。
そこで乱雑に並べられた商品や、ひっそりと置かれた新商品を目にした古倉恵子は、自分が店員であるかのように振る舞い始めました。
コンビニのトイレから慌てて出てきた白羽さんに止められました。
古倉恵子は面接をキャンセルし、コンビニのガラスに映る自分の姿を見て、自分はコンビニのために存在しているのだと実感しました。
コンビニ人間の起承転結
【起】コンビニ人間のあらすじ①現代の皮をかぶった縄文時代
私はコンビニ人間として生まれる前のことを、鮮明に覚えていません。
普通の家に生まれ、家族に愛されて育ちましたが、私は少し奇妙な子供でした。
公園で死んでいた鳥を食べようとしたり、喧嘩していた同級生を止めるためにスコップでなぐったりしました。
その度に職員会議が開かれ、親が学校に呼び出されました。
親に迷惑をかけたくなかった私は、外では極力喋らないようにしました。
大学生になったある時、スマイルマート日色町駅前店アルバイト募集のポスターを見つけ、コンビニでアルバイトを始めました。
研修に集まった15人ほどのスタッフは年齢も性別もバラバラでしたが、制服を着ると一気に「店員」になりました。
全ての言動がマニュアル化されたこの世界で、私は「普通」の人間として過ごすことができました。
大学卒業後も同じ店舗で働き続け、18年がすぎました。
自分の生活は変わらないまま店長は8人目になり、同僚もどんどん入れ替わっていきます。
ある日、白羽という男性アルバイトが入ってきました。
彼はコンビニのアルバイトを馬鹿にしているような態度をとっています。
「商品のフェイスアップなどは、縄文時代から女性に向いている仕事だ」という理屈で、仕事に真面目に取り組みませんでした。
【承】コンビニ人間のあらすじ②合理的な同棲生活
アルバイトが休みの金曜日に、私は妹の家に遊びに行きました。
妹は、独身でアルバイト生活の私が周りから怪しまれないように、いつも支えてくれています。
妹を悲しませないために、私は昔のような言動を取らないように心がけていました。
白羽さんは婚活のためにこの職場に来たようでしたが、ろくな相手がいないとよく悪態をついていました。
しかし、次に出勤したとき、シフト表にある白羽さんの名前にバツ印が付けられていました。
どうやらお客さんにストーカー行為を行ったようで、クビになったそうです。
友人とのバーベキュー帰りに職場に立ち寄ると、外に白羽さんが立っていました。
話を聞いてみると、ルームシェアをしていた部屋を家賃滞納で追い出され、帰る場所がないとのことでした。
私は明日もアルバイトなので早く寝ようと思い、白羽さんを家に連れて帰りました。
白羽さんがシャワーを浴びている間、私は妹に電話しました。
妹は、私が男性と一緒にいるとわかるととても喜んだ様子でした。
次の朝、白羽さんが寝ている間に私はアルバイトに出かけました。
仕事が終わって家に帰ると、まだ白羽さんが部屋に居座っています。
白羽さんと私は、面倒な社会の視線から逃げるため、利害の一致だけで同棲生活を始めたのです。
【転】コンビニ人間のあらすじ③同志がいなくなったコンビニ
白羽さんを飼い始めてからさらに生活費を稼ぐ必要ができたため、私はシフトを増やしてもらおうと店長に話を持ちかけました。
今月の給料明細をもらうタイミングで、店長が白羽さんと連絡先をとりがっていることを知りました。
私は思わず口を滑らせてしまい、白羽さんが家にいることがバレてしまいました。
その途端に店長は仕事の話をやめ、どちらから告白したのかなど、面倒な質問をしてくるようになりました。
そのとき店内が混んできたので補助に入り、今日セールのからあげ棒がまだ揚がっていないことに気がつきました。
慌ててバックヤードに戻り、店長にからあげ棒の話をすると、近くにいた泉さんから「白羽さんと付き合っているのか」と聞かれました。
私のからあげ棒の話など全く耳に入っていない様子で、2人は盛り上がっています。
私はまた店頭に戻り、留学生のトゥアンくんと一緒にからあげ棒の準備を急ぎました。
店員でいる間、店長や泉さんは一つの目標に向かって力を合わせてきた同志だったのに、みんなどうしてしまったのだろうと思いました。
【結】コンビニ人間のあらすじ④コンビニ店員という動物
家に帰り、白羽さんとの同棲が職場にばれてしまったことを彼に話しました。
白羽さんは、私が「無職の男と同棲しているのに、いつまでアルバイトでいるつもりだ」という批判を受けると主張しました。
白羽さんとのことは瞬く間に職場に広まり、私は毎日面倒な質問に応えなければいけませんでした。
私を「店員」として扱ってくれるのはお客さまだけで、同僚は私のことを「メス」としか認識してくれません。
ある日、白羽さんの弟の妻が家に押しかけてきて、そこで白羽さんが借金をしていることが判明しました。
白羽さんに働く意思はないので、必然的に私が借金を返すことになるのですが、アルバイトでは限界があります。
私はコンビニのアルバイトを辞めることにしました。
18年間勤めたわりに終わりはあっさりしていて、なぜかみんなに祝福されました。
生きる基準を失った私は、毎日何時に起きて何時に寝ればいいのか分からなくなってしまいました。
白羽さんのいう通りに履歴書を書き、ついに面接までこぎつけました。
白羽さんと一緒に面接会場に向かう途中、白羽さんがトイレに行くと言って、あるコンビニに立ち寄りました。
私は店内の乱雑な商品棚や埃を被った商品を見て、すぐに整理を始めました。
レジの子に指示を出していると、トイレから出てきた白羽さんに止められました。
人間の私には白羽さんが必要ですが、「コンビニ店員」という生き物の私には、白羽さんは必要ありません。
私は面接をキャンセルし、コンビニのガラスに映った自分の姿を見て、自分の存在意義を改めて感じたのでした。
コンビニ人間の解説(考察)
この作品では、現代社会で生きることの難しさが描かれています。
昔から「普通」ではないことを自覚していた古倉恵子は、自分をコンビニ店員として認識することで生きてきました。
彼女自身は自分の何を治したら「普通」になるのかわかっていない様子なので、自由に生きることも選べたはずです。
しかし、家族や友人に心配をかけないようにするためには、社会のマニュアル通りに生きる必要がありました。
コンビニアルバイトは、完璧なマニュアル化がされています。
誰かの真似が得意な古倉にとって、コンビニはこの上なく暮らしやすい場所だったのでしょう。
コンビニアルバイトを辞めた彼女は自分を見失い、他の店舗で狂気を感じるような行動をとってしまいました。
どのように生きるのか、誰と生きるのかを、本当の意味で自由に選択できる世界は、現代社会にはないのかもしれません。
コンビニ人間の作者が伝えたかったことは?
縄文時代も現代社会も、人間の望む生活は多種多様ということを伝えたかったのだと思います。
男は稼いで女は家を守るという固定概念は、白羽さんのいう通り、縄文時代から大きな変化がありません。
昨今ジェンダーレス、男女平等という考えが出てきていますが、まだまだ社会に浸透しているとは言えない状況です。
大人になったら誰しもがすると思っている就職や結婚も、負担に感じたり、不要と感じたりする人はいます。
自分がそうであるからあの人もそうだ、という決めつけは、いつになっても無くなりません。
人は無理やり社会の流れに乗ろうとすると、自分を見失ってしまうものです。
自分の存在意義を感じられる場所で、一人ひとりが生きられる世界になってほしいですね。
コンビニ人間の3つのポイント
ポイント①魅力的な装画
「コンビニ人間」の装画を担当したのは、現代美術家の金氏徹平氏だそうです。
建物の中からさまざまなものが飛び出ている絵は、見れば見るほどなんだか不思議な気持ちになります。
ポイント②作者自身の体験
この作品には、作者が実際にコンビニエンスストアでアルバイトした経験が活かされています。
芥川賞受賞後の勤続に関しては、店長と相談して決めると述べていたそうです。
ポイント③読書芸人
過去には人気テレビ番組「アメトーーーク」で、「コンビニ人間」が紹介されています。
誰かにおすすめしたいくらい読みやすく、共感しやすい作品ということですね。
コンビニ人間を読んだ読書感想
「コンビニ人間」を読んで、ゾッとしたことがあります。
古倉恵子が自分の周りにいる人間の喋り方や服装を真似て、「普通」になろうとしている姿です。
私たちも誰かの真似をして、知らず知らずのうちに自分の中に誰かが取り込まれているのかもしれません。
久しぶりに会った友人に「懐かしい」と連呼されながらも、なんだか釈然としない古倉恵子の様子にも納得がいきます。
友人は何を見て懐かしいと言っているのか?
本当に私は私自身なのか?
日常生活のちょっとしたことでも問題提起してくれる「コンビニ人間」は、何度でも読みたくなる作品ですね。
コンビニ人間のあらすじ・考察まとめ
人の数だけ、人生があります。
子孫を残すという、人間の本能だけで自分の人生を進んでいくのは勿体無いような気がしますね。
しかし、結婚や就職の目的もまた人それぞれです。
子孫繁栄のためという人もいるかもしれないし、幸せを感じるためにする人もいるかもしれません。
誰かを型にはめたがる側も、型にはまらないようにする側も、相手の人生を侵害する権利はないということです。