「あばばばば」とは、教科書などでもよく見られる芥川龍之介による短編小説です。
ある一人の男から見た、女性が母親になることの変化を描いた物語です。
人生のふとした出来事を切り取ったような、親しみを感じられるこの作品。
果たして、「あばばばば」は何をテーマとした作品なのでしょうか?
そして、このタイトルの意味とは?
作者がこの作品を通して伝えたかったことは?
今回は、そんな「あばばばば」のあらすじや感想から考察までを詳しく解説していきます!
「あばばばば」とは?
「あばばばば」とは、芥川龍之介による短編小説です。
この作品は「保吉もの」の一つであり、芥川の海軍機関学校の教官時代の出来事が題材になっています。
他の「保吉もの」としては、「或恋愛小説」「少年」「早春」「保吉の手帳から」などがあります。
いずれも堀川保吉が主人公であり、芥川の私小説ともいえるシリーズとなっています。
作者名 |
芥川龍之介 |
発売年 |
1923年 |
ジャンル |
短編小説 |
時代 |
大正時代 |
芥川龍之介のプロフィール
「あばばばば」の作者である芥川龍之介は、明治25年7月24日に東京で生まれました。
東京帝国大学英文学科に進学後、創作活動に励むようになります。
海軍機関学校の教官として働いていた時期もあり、その時の経験は作品にも反映されています。
有名な作品としては「羅生門」「鼻」「地獄変」などがあり、今もなお幅広く読まれ続けています。
あばばばばの特徴
「あばばばば」は、主人公である保吉の目線で物語が進んでいきます。
話の長さとしては短いですが、文語体の独特の表現は、読む人によっては少し難しく感じるかもしれません。
しかし、今も昔も変わらない、何気ない日常を切り取ったような想像しやすい内容となっています。
話の流れも分かりやすいので、文語体の表現を除けば、芥川の短編小説の中でも読みやすい作品です。
あばばばばの主要登場人物
保吉 |
主人公。海軍学校の教官をしている。 |
店屋の主人 |
無愛想な店の主人。 |
女 |
店の主人の妻。19歳ぐらい。 |
あばばばばの簡単なあらすじ
海軍学校で教官をしている保吉には、通っている店がありました。
ある日、店番にはいつもの主人ではなく、若い女が座っていました。
保吉は彼女のたどたどしい対応や、恥じらう様子に好意を抱いていました。
しかし、ある時から女は顔を見せなくなります。
それから一か月ほどたった後、保吉は店で赤子をあやす女の姿を目にします。
その様子は、彼女が母親へとなったことを感じさせるものでした。
あばばばばの起承転結
【起】あばばばばのあらすじ①
海軍学校で教官をしている保吉には、通勤途中、通っている店がありました。
そこの店の主人は若い斜視の男で、愛想こそないですが親切でした。
初めて訪れた際、保吉がマッチを買おうとすると、主人は売り切れていると煙草についているマッチ箱をタダで渡そうとします。
それは気の毒だと断りますが、主人は譲らずに代金はいらないといいます。
保吉は結局、店の小僧が持ってきた美しい箱のマッチを買いました。
保吉はその後も半年ばかり、この店で買い物をするようになりました。
【承】あばばばばのあらすじ②
ある日、店にはいつもの主人ではなく、若い女が座っていました。
年は19歳くらいで、髪を西洋風に結っています。
彼女は主人の妻で、店番をする様子はたどたどしく商品を間違えるなど、不慣れな様子でした。
奥さんというような面影は見えず、人慣れしてない所に保吉は親しみを感じます。
彼女の初々しい応対と時々顔を赤らめる様子を見て、保吉は恋愛感情とはまた違う、好意を抱くようになりました。
【転】あばばばばのあらすじ③
保吉は、彼女の反応を面白がり、からかうような口ぶりを見せることもありました。
ある日、女と店の主人との何気ない会話を耳にしてしまいます。
会話の内容は、女が「玄米珈琲」を「ゼンマイ珈琲」と聞き間違えたというものでした。
保吉が声をかけると、女は話を聞かれたと思い今までにないくらい顔を真っ赤にしています。
この後、ある時から女は顔を見せなくなりました。
無愛想な主人に尋ねるわけにもいかず、保吉は段々と女のことを忘れ始めていました。
【結】あばばばばのあらすじ④
それから一か月ほどたった後、保吉は店で赤子をあやす女の姿を目にします。
目が合った時、きっと女は以前のように顔を赤くすると思いました。
しかし女は赤子へ目を戻すと、人目も気にせず「あばばばばばば、ばあ!」と再びあやし続けます。
保吉はにやにや笑いながら、彼女はもう「古来如何いかなる悪事をも犯した、恐ろしい『母』の一人である」と感じます。
保吉は、あの時の初々しい女は、図々しい母親になったのだと思うのでした。
あばばばばの解説(考察)
日常生活の何気ない一部分が切り取られた作品です。
特別大きな事件などはありませんが、一人の女が母親になる様が巧みに映し出されています。
それまでは、すぐに顔を赤くするような少女のようだった女が、子を産むことで度胸のある母親になったという変化が読み取れます。
子どもが第一になった女の母親としての姿が、印象的に描かれている作品です。
あばばばばの作者が伝えたかったことは?
芥川は、保吉の目線から見た店の人間の様子を細かく描写しています。
女が母親になったということを、「あばばばばばば、ばあ!」というあやし方から伝えようとしています。
今も昔も変わらずに、子どもが生まれることで女性は母親に変化していたのだと実感することができる描写です。
あばばばばの3つのポイント
ポイント①恋愛感情まではいかない好意
保吉は女に対して、恋愛感情とはまた異なる好意を抱いています。
すぐに顔を赤らめる純粋な様子を面白がり、少しからかってやりたいという思いも持ち合わせていました。
女がずっとそのままでいるという驕りも含んだ、何とも言えない感情です。
それは相手をよく知らないからこそ、勝手に抱ける気持ちなのかもしれません。
深くかかわりがない人へ、なんとなく抱く好意という存在については、今の読者も共感できるのではないでしょうか。
ポイント②恐ろしい「母」とは?
保吉は最後に、女のことを「古来如何いかなる悪事をも犯した、恐ろしい『母』の一人である」と感じています。
一見失礼なことを言っているようにも見えますが、これは母親は何よりも子を愛する、という意味にも捉えられます。
もう以前のような様子は見られないと少し寂しく思う反面、立派に母親として生きていることへの賛辞も感じ取ることができます。
顔を赤くしていたころから考えると、母親になった姿を見ることには読者も感慨深いものがあるでしょう。
ポイント③母親になった女の変化
女は母親になり、人目も気にせず赤子をあやしています。
「あばばばばばば、ばあ!」という赤子をあやすことを第一にした様子からは、以前の恥じらいはありません。
女は度胸のある母親になったことで、保吉と目を合わせても顔を赤くすることはありません。
自分よりも赤子を優先させる姿から、恥じらいや照れの感情は失われていったことがわかります。
あばばばば作品名を読んだ読書感想
最初にこの作品を読んだときはタイトルの意味が分からずに、内容を予測することができませんでした。
読み終えると、赤子をあやすときの声だと知り、母親になった女の様子が目に浮かび微笑ましく思いました。
人は環境の変化とともに変わっていきますが、特に母親になるという出来事は影響が大きいと感じます。
これから赤子が成長していく中で、この店の様子も同じように、段々と変わっていくのかなぁと考えました。
あばばばばのあらすじ・考察まとめ
昔利用していた、少し思い出の残った馴染みの店。
やり取りこそ少ないものの、保吉は女に抱いている印象や感情がありました。
再び訪れたそこには、あの時の初々しい女ではなく、赤子を思う母親がいました。
何気ない日常に隠れた変化を感じてみたい方はぜひ読んでみてください!