『芋粥」と聞いて思い浮かべるのはどんな言葉や物でしょうか?
料理のレシピ、平安時代など様々思い浮かぶと思いますが、今回は芥川龍之介の『芋粥』という短編小説を紹介します。
『芋粥』を読むと自分の願い事や欲望について、再度考えなおすことが出来るかもしれません。
この記事ではそんな『芋粥』の作者のプロフィールやあらすじから感想まで詳しく解説していきます。
「芋粥」とは?
作者名 |
芥川龍之介 |
発売年 |
1917年5月 |
ジャンル |
短編小説 |
芥川龍之介のプロフィール
『芋粥』の作者である芥川龍之介は、明治から昭和初期にかけて活躍した作家です。
作品には古典を題材にしたものが多く、教科書でおなじみの『鼻』『羅生門』なども芥川龍之介の作品です。
数々の作品を世に出してきましたが、私生活はセンセーショナルで心中未遂や自殺を図っています。
享年36歳(数え年)で服毒自殺で最期を迎えました。
芋粥の特徴
芥川龍之介の『芋粥』の読了後は何とも言い難い気持ちになる方も多いでしょう。
その言い難い気持ちの正体は主人公の『欲望が他人によって叶えられた時の気持ちの揺れや喪失感』にあります。
『芋粥』の大きな特徴として「願望や欲望は心の中にあり現実にならないほうが幸せなのか」、「自分で現実にすることが大切なのか」
といったことを読者自身に考えさせるという点が挙げられます。
こういった点を理解しておくとあらすじもスムーズに入ってくるかと思います。
芋粥の主要登場人物
五位 |
40代の風采の上がらず意気地のない男 |
藤原利仁 |
五位とは正反対で五位の願望を叶える男 |
無位の侍 |
唯一五位を蔑まない男 |
芋粥の簡単なあらすじ
舞台は平安時代の元慶のころの京、主人公は摂政・藤原基経に仕える『五位』という人物です。
この五位という人物は「40代で背が低く赤鼻」で、見た目も才能もパッとしない男性です。
道で遊ぶ子供にも馬鹿にされ笑ってごまかし、同僚にも見下されるという情けなく、くだらないな日常を送っていました。
しかしそんな五位にも夢がありました。
それは「いつか芋粥を飽きるほど食べたい」というものでした。
そして、ある日その夢が叶いたくさんの芋粥を目にしても、なぜか食欲が失せてしまうようになるのでした。
芋粥の起承転結
【起】芋粥のあらすじ①
平安時代の京都、藤原基経の部下に『五位』という人物がいました。
この五位という人物は赤鼻で背が低く、パッとしないだらしない男でした。
同僚にも空気のように扱われてバカにされ、さらには道で遊ぶ子供にさえ馬鹿にされる始末です。
【承】芋粥のあらすじ②
そんな五位にも願望がありました。「五位にとって滅多に口にできない当時のごちそうである芋粥を飽きるほど食べたい。」というものです。
ある正月の日の宴で五位の願望を聞いた藤原利仁が『たらふく食わせてやろう』と屋敷に誘います。
その様子を見ていた同僚に、嘲笑われながらも欲望に負けた五位は一緒に屋敷に向かうことになりました。
【転】芋粥のあらすじ③
それから四、五日後に五位と藤原利仁は馬に乗り出かけることになりました。
五位は利仁に行く先を聞きますが、はっきりと答えてくれません。
盗賊の出る地域まで来て五位は、ようやく敦賀まで行くことを五位に伝えます。
京都から敦賀まではとんでもなく遠く、盗賊がでる地域を二人で通ることに五位は不安でしたが、利仁を頼りに進むしかありませんでした。
そして途中で出会った狐に、男が二人高島まで行くから迎えにくるようにと伝言をします。
二人が高島まで着いた頃に、二、三十人の利仁の従者が現れました。
狐は敦賀の館の奥方に乗り移り、利仁の伝言を確かに伝えたのでした。
【結】芋粥のあらすじ④
翌朝より利仁の命令で、五位の願望である大量の芋粥が用意されることになりました。
五位の切実な願望が、もうすぐ叶うところまできてしまいました。
そのことに五位は夢か現実かわからなくなり、夜も眠れない状態でした。
翌朝、大量の芋が運ばれて芋粥が調理されていきます。
「この芋粥を食べるために自分は遠路はるばる京からここまできたのだ。」
そう思うと食欲がなぜか薄れていきました。
どうにも食べる気が起こらないのです。
たくさん食べろと言われても箸が進まず、無理して少し食べただけでお腹いっぱいになってしまいました。
大量の芋粥を前に五位は、「大量の芋粥を目の前にする前の自分」「同僚に嘲笑われながらも芋粥をお腹いっぱい食べたがっていた過去の自分」を思い出していたのでした。
芋粥の解説(考察)
芋粥の作者が伝えたかったことは?
五位はなぜあれほどに食べたかった芋粥を前に、急に食欲を失ってしまったのか。
願望を前に恋い焦がれている気持ち、それを現実にしようと努力している時が心が充実していたからではないかと考えます。
芋粥は見た目がパッとせず周りからも馬鹿にされていた五位の唯一の希望だったからです。
「年に一度しか食べられない芋粥に希望を持ち生きていた」といっても過言ではありませんでした。
そんな願望を、他人のよって叶えられてしまった時の喪失感は、これからの五位の生き方にも関係してくるのではないでしょうか。
芋粥の3つのポイント
ポイント①五位とは?
主人公の五位は名前ではなく「位階」を表しています。
五位の場合は低位となり、主人公の名前は最後まで明らかにされていません。
ポイント②芋粥は高級な食べ物?
芋粥は山芋を「甘葛(アマヅラ)」で煮たおかゆのことです。
「甘葛(アマヅラ)」は甘味料のひとつで、砂糖が貴重な時代には重宝されていた高級品でした。
この甘さが五位の芋粥に恋焦がれる理由のひとつかもしれません。
ポイント③古典を題材に
芥川龍之介は古典を題材にした作品を書いています。
この『芋粥』も『今昔物語』を題材に書かれています。
興味のある方は作品を読み比べてみるのも楽しみ方のひとつになるでしょう。
芋粥を読んだ読書感想
周囲には馬鹿にされている五位の唯一の楽しみ『芋粥』。
「それを食べることを楽しみに生きていた」と言っても過言ではない願望が、他人により簡単に叶えられてしまったことに対する、五位の心の揺れを感じることが出来る作品ではないかと思いました。
五位の願望を叶えた藤原利仁に悪意はあったのか、なかったのか。
そのことを考えると、短編の中にギュッとたくさんのことが詰まっているように感じました。
芋粥のあらすじ・考察まとめ
芋粥は「人は何か願望があるから強く生きることができる」
しかしそれは「他人に叶えられてしまうと、一気に価値を失ってしまう」
そんなことを感じさせられる作品でした。
これは現代にもつながる部分があります。
モノからコトに価値が置き換わる世の中において、考えさせられることが多くある素敵な作品です。