あらすじ 小川洋子

妊娠カレンダーのあらすじとネタバレ 読書感想から考察まで徹底解説/小川洋子

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オーディオブックの魅力や使い方を徹底解説

みなさんは、芥川賞受賞作品を読んだことはありますか?

純文学と聞くと、なんだか難しい内容なのではないかと思う人もいるかもしれません。

しかし、今回ご紹介する小川洋子「妊娠カレンダー」は日記という形式を取っており、とても読みやすいものになっています。

この記事では、「妊娠カレンダー」のあらすじやネタバレから感想・考察まで徹底的に解説していきます。

「妊娠カレンダー」とは?

「妊娠」という人間の神秘。

実際に経験しなければ、妊娠を身近に感じることは難しいでしょう。

妊娠中の姉と暮らしながら日記を付ける妹は、いったい何を感じているのでしょうか。

作者名

小川洋子

発売年

1994年

ジャンル

現代文学

時代

現代

作者名のプロフィール

小川洋子 1962年生まれ

岡山県出身で、実家は教会の敷地内にあるそうです。

幼少期から読書にはげみ、文芸を志すために早稲田大学第一文学部に入学します。

大学の卒業論文を書き直した「揚羽蝶が壊れる時」で、1988年に海燕新人文学賞を受賞しました。

日本の現役女性作家の中で、翻訳された作品が一番多いことでも知られています。

作者名の代表作

小川洋子の代表作は「博士の愛した数式」や「薬指の標本」、「猫を抱いて象と泳ぐ」などです。

小川洋子が執筆の際に重要視しているのは、描写だそう。

たしかに、彼女の作品に登場する情景や物の描写は繊細で、作品の雰囲気作りに深く関係しています。

そのうえで人間の内情が細かに描写されることが少ないのは、読者の想像に任せたいからであると語っています。

彼女の描く作品は読む度に印象が変わって、味わい深い作品ばかりですね。

妊娠カレンダーの主要登場人物

わたし

学生です。スーパーでアルバイトをしながら姉と義兄と3人で暮らしています。

妊娠中です。昔から神経の乱れに敏感で、よく病院に通っています。

義兄

歯科医院で歯科技工士として働いています。

妊娠カレンダーの簡単なあらすじ

12月29日に姉が産婦人科に行き、正式に妊婦になりました。

義兄と姉が妊娠を話題に出さないので、わたしも「おめでとう」と言いそびれてしまいましたが、妊娠とはおめでたいことなのかとふと疑問に思うのでした。

1月8日になると、ついにつわりが始まりました。

姉が匂いに敏感になったので、わたしは姉がいるときにキッチンを使わないようにしました。

5月1日、つわりが終わると、姉は常に食べ物を口にするようになりました。

夜に枇杷のシャーベットを食べたいと騒ぎ出して困ったことがありましたが、義兄は姉の肩を抱くだけでなにも役に立ちませんでした。

わたしはアメリカ産のグレープフルーツが染色体に異常を来すことを知りながら、姉にグレープフルーツのジャムを作り続けました。

8月11日、バイトから帰ると「陣痛が始まりました。病院へ行きます」という手紙が置いてあったので、わたしはM病院に向かいました。

わたしは、破壊された赤ん坊に会うために、新生児室に向かって歩き出しました。

妊娠カレンダーの起承転結

【起】妊娠カレンダーのあらすじ①M病院で妊婦になる

姉はM病院にいき、正式に妊婦になりました。

M病院はわたしたちの祖父の時代からある産婦人科の個人病院です。

わたしと姉はよく病院の中庭に忍び込んで、病院のなかをのぞいていました。

ときどき3階の窓から女の人が無表情に外を見ていることがあったのですが、わたしはふと、姉もいつかそうなるのだろうかと思いました。

わたしは姉と義兄と3人で暮らしていますが、姉と義兄がわたしのいないところで何を話しているのか知りません。

二人が妊娠の話題を出さないのでわたしも黙っていましたが、「君は大切な身体だから、無理して動かない方がいいよ。」という義兄の言葉にはうんざりしてしまいました。

【承】妊娠カレンダーのあらすじ②甘ったるい言葉

ついに、つわりが始まりました。

姉は鉄のスプーンやグラタンのホワイトソースに文句をつけて、結局残していました。

姉のつわりはどんどんひどくなり、なにも食べられない状態になってしまいました。

なぜか義兄も体調をくずし始め、義兄は苦しむ姉の背中をさすりながら自分の胸を押えていました。

相変わらず姉と義兄は赤ん坊の話をしないので、わたしは赤ん坊のことを「染色体」としてしか認識できませんでした。

わたしはキッチンにいる姉に「クロワッサン、食べる?」と聞いてみましたが、「クロワッサンという甘ったるい言葉は口にしないで」と怒られてしまいました。

姉は代わりに干しぶどうをむしゃむしゃ食べ始めました。

その時わたしは、姉のつわりが終わったのだと気付いたのです。

【転】妊娠カレンダーのあらすじ③枇杷のシャーベット

つわりが終わってから、姉は起きている間ずっと何らかの食べ物を口にしています。

土砂降りの雨の夜、姉は突然とんでもないものを食べたいと言い出しました。

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オーディオブックの魅力や使い方を徹底解説

「枇杷のシャーベットが食べたいの。」

かわりにアイスやチョコレートをすすめてみましたが、全く聞く耳を持ちません。

義兄は相変わらずおどおどした様子で「とにかく今日はもう眠ろう」などといっているので、わたしはまたいらだってしまいました。

わたしは義兄の働いている歯科医院ではじめて彼と会ったときのことを思い出しました。

「白衣とマスクに包まれたこの貧弱な男が、姉と結婚するのだろうか」

【結】妊娠カレンダーのあらすじ④アメリカ産グレープフルーツ

わたしはバイト先にもらったグレープフルーツでジャムを作りながら、友達と参加した「地球汚染・人類汚染を考える会」のことを思い出しました。

アメリカ産のグレープフルーツに付着している防かび剤には、人間の染色体を破壊する成分が含まれているそうです。

姉はジャムの匂いにつられてキッチンにやってくると、つぎつぎとジャムを口に運んでいきました。

姉がジャムを気に入ったようなので、追加のグレープフルーツを買いに行く際には必ず、「これ、アメリカ産のグレープフルーツですか?」と確認するようにしています。

8月11日、バイトから帰ると「陣痛が始まりました。病院へ行きます」という置き手紙を見つけました。

わたしは破壊された姉の赤ん坊に会うために、病院に向かって歩き出しました。

妊娠カレンダーの解説(考察)

「妊娠カレンダー」で注目するべきは、やはり姉と妹の関係です。

二人の間には「妊婦である姉」と「妊婦ではない妹」という大きな違いがあります。

「わたし」は、妊娠や夫婦というものをうまく理解できていないようでした。

そんな「わたし」が妊婦の姉を間近で観察しながら書いた日記が、この「妊娠カレンダー」なのですが、不可解なのは「わたし」の行動です。

「わたし」は胎児を染色体として捉えており、その染色体をアメリカ産のグレープフルーツで破壊しようとしています。

「わたし」は、なぜこのような行動をとったのでしょうか。

その理由は、「わたし」が姉の妊娠を望んでいなかったからだと考えられます。

精神的に問題を抱えている姉が妊娠によってさらに不安定になり、「わたし」の生活にも支障をきたしています。

また、「わたし」は義兄に良い印象をもっていなかったことから、姉と義兄が結婚したことにも理解を示せずにいます。

しかし、「わたし」は姉のためににおいの出ない洗剤を買ったり、外でご飯をたべたりしていることから、姉のことを大切にしているように思えます。

そんな姉を破壊した胎児に、「わたし」は嫌悪感を抱いています。

以上のことから「わたし」は、姉のために胎児を破壊したのだと考えられます。

妊娠カレンダーの作者が伝えたかったことは?

妊娠とは新しい生命の誕生であり、本来周囲から祝福されるものです。

しかし、この作品で「妊娠」は嫌悪される存在でした。

「わたし」からすれば妊娠とは、姉を苦しめるものでしかなく、胎児は腫瘍のような存在です。

「わたし」からみた妊婦の様子はある意味客観的な描写であり、妊娠というものがいかに非日常的であるのかを読者に教えてくれます。

胎児によって姉が崩れていく様子を描くことで、作者は「妊娠」や「妊婦」という存在の不安定さを描いたのでしょう。

妊娠カレンダーの3つのポイント

ポイント①義兄にいらつく「わたし」

作中で気になるのが、「わたし」が抱く義兄への苛立ちです。

姉のつわりと一緒に具合が悪くなったり、治療の際に「わたし」の歯茎を褒めたりする態度に、「わたし」は終始いらだっているようです。

しかし「わたし」のフィルターを外すと、義兄の態度は夫としてふさわしいようにも感じられます。

姉への強い共感や妻の家族である「わたし」への気遣いは、苛立ちを誘うような態度にはみえません。

「妊娠カレンダー」は「わたし」目線でみた登場人物たちの評価が、わたしたち読者とは一致しないところがあります。

新しい発見が出来そうで、ますます読み込みたくなりますね。

ポイント②悪意のある食べ物の描写

作中で登場する食べ物の描写は、お世辞にもおいしそうとは言えません。

例えば「半熟の卵は血液のよう」や、「キウイの種は小さな虫の巣みたい」など、食べ物を魅力的に描写するにはふさわしくないものばかりです。

「妊娠カレンダー」では姉のつわりが描かれていますので、食べ物が拒絶対象になっています。

そういう意味では、食べ物に嫌悪感を抱かせるこの描写は、この作品にふさわしいといえますね。

ポイント③日記形式である意味

「妊娠カレンダー」ということばをインターネットで検索すると、小説の「妊娠カレンダー」ではなく、記録としての「妊娠カレンダー」がヒットします。

妊娠カレンダーとは、妊婦が自分の身体や胎児の状態を把握する目的で、妊婦自身が記録するカレンダーだそうです。

しかし、この作品は妊婦の妹である「わたし」が記録した日記であり、本来の妊娠カレンダーとは違うように思えます。

当事者でないものが記録する妊婦の記録。

異常な日記形式にすることで、作品全体が不穏な空気をまとっていますね。

妊娠カレンダーを読んだ読書感想

「妊娠カレンダー」を初めて読んだとき、「わたし」の感性に衝撃を受けました。

「わたし」は日常に広がる世界を、歪んだ感性で受け止める人だと思います。

なかでもスーパーの描写は印象に残っています。

「ここにある物が全部、人間の食べる物だと思うと、恐ろしかった。食べ物を捜すためだけに、これだけの人数の人が集まっていることが不気味に思えた。」

この文章を読んだときに、わたしもなんだかぞっとしました。

食べるという行為にこれだけの人間が真剣になっていると考えると、ほかの生き物との違いが浮き彫りになって、まるで人間でいることが浅ましいような気にさえなってきます。

食べることと生きることは、やはり切っても切れない関係ですね。

妊娠カレンダーのあらすじ・考察まとめ

生命の誕生には、母体の危険がつきまといます。

ひとりの人間を体内に抱えている母親は、人間の本能である「食」をはじめとして心身が壊れてしまうようです。

大切な人の身体を壊す胎児は、あなたにとって「赤ん坊」に見えますか?それとも「腫瘍」に見えますか?

「妊娠カレンダー」は、様々な価値観の違いが発見できそうな深い作品ですね。

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