あなたは湊かなえの作品を読んだことがありますか?
彼女の作品の特徴は、語り手がつぎつぎに変わっていく点です。
今回ご紹介する「告白」は湊かなえのデビュー作であり、第6回本屋大賞を受賞したベストセラーでもあるのです。
この記事では、「告白」のあらすじやネタバレから感想・考察まで徹底的に解説していきます。
「告白」とは?
ある中学校で起きた死亡事故。
事故死した女児の母親である教師は、終業式のホームルームであることを話します。
語り手は教師から生徒へ、生徒から加害者へ・・・
すべての証言を聞いたとき、物語は衝撃的なラストを迎えます。
作者名 |
湊かなえ |
発売年 |
2008年 |
ジャンル |
ミステリー |
時代 |
現代 |
作者名のプロフィール
湊かなえ 1973年生まれ
広島県出身で、幼少期から読書に親しんでいたそうです。
結婚した後、創作活動に励むようになります。
2007年に「答えは、昼間の月」でラジオドラマ大賞を受賞しました。
同年に「聖職者」で小説推理新人賞を受賞し、小説家デビューします。
作者名の代表作
代表作には「告白」「Nのために」「白ゆき姫殺人事件」などがあり、多くの作品が映像化されています。
ミステリーや女性の内情の描写などが評価されています。
そのなかでも小説の構成が特徴的で、それぞれの登場人物の視点で描いたモノローグ的な作品が多く存在しています。
告白の主要登場人物
森口悠子 |
中学校の教員です。勤め先の学校で娘の愛美を亡くしました。愛美の父親は、世直しやんちゃ先生です。 |
森口愛美 |
森口悠子の娘です。わたうさちゃんというキャラクターが大好きです。 |
桜宮正義 |
「世直しやんちゃ先生」の名でテレビにも出演する有名な教育者です。森口悠子の婚約者でしたが、HIVウイルスに感染しているとわかり婚約破棄になりました。 |
下村直樹 |
森口悠子の生徒です。勉強が出来ないことにコンプレックスを感じていました。 |
渡辺修哉 |
森口悠子の生徒です。成績優秀ですが、動物実験をしているという噂があります。 |
美月 |
森口悠子の生徒です。学級委員長で、下村直樹に想いを寄せていましたが、渡辺修哉と付き合うことになりました。 |
寺田義輝先生 |
森口悠子の後任の担任です。世直しやんちゃ先生に憧れていて、情熱的な先生です。 |
下村真理子 |
下村直樹の姉です。直樹に殺害された母親の日記を発見します。 |
告白の簡単なあらすじ
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」終業式のホームルームで、森口悠子から衝撃の「告白」がありました。
森口によって特定された犯人は、森口の生徒である下村直樹と渡辺修哉でした。
渡辺修哉が作った「電気が流れるポシェット」を触った森口愛美は、プールサイドで気を失い、倒れました。その場にいた下村直樹は動転し、愛美が目を覚ましたにもかかわらず、彼女を抱きかかえてプールに落としたのです。
下村直樹は不登校になり、母親を殺しました。
渡辺修哉はクラスでいじめに遭い、唯一心を許していたガールフレンドの美月を殺しました。
渡辺修哉は幼い頃に両親が離婚しており、母親と離れて暮らしていました。
母親の気をひくために学校で事件を起こしたのですが、その目論見は失敗に終わります。
渡辺は再度事件を起こそうと、学校に爆弾を仕掛けてスイッチを押します。
しかし、その爆弾は森口悠子の手によって、渡辺の母親が所属するK大学の研究室に仕掛けられていたのです。
告白の起承転結
【起】告白のあらすじ①ホームルームから始まる復讐
森口悠子によるホームルームが始まりました。
生徒は牛乳を飲んでいます。
「厚生労働省・全国中高生乳製品促進運動」のモデル校に選ばれたこの学校では、毎日牛乳を飲む決まりになっていたのです。
森口は今月いっぱいで退職する旨を生徒に伝えると、ある出来事について話し始めます。
森口には一人娘の愛美がいました。
父親は桜宮正義先生ですが、彼がHIVに感染しているとわかってからは偏見の目を向けられないように、シングルマザーの道を選びました。
シングルマザーとして働きながら子育てをすることは大変で、愛美を保育園に迎えに行ってから保健室に預ける日もありました。
ある日、愛美は学校のプールで死体で見つかりました。
事故死かと思われましたが、愛美はこのクラスの二人の生徒に殺されたのだというのです。ここから森口は、犯人をA・Bとして話を進めます。
Aは目立つ生徒ではありませんでしたが、自分で立ち上げた「天才博士研究所」というサイトで残虐な動物実験をしていました。
ある日、Aは「全国中高生科学工作展」に応募した「盗難防止びっくり財布」で特別賞を受賞します。
それと同じように電気が流れる仕組みの「わたうさちゃん」のポシェットが、あの日プールの外に投げられていました。
愛美は「わたうさちゃん」が大好きで、以前買い物中にこのポシェットをねだられたことがあります。
しかし、森口は愛美のわがままを聞きませんでした。
偶然そこに通りかかったBから「買ってあげれば良いのに。」と言われたことを思い出し、今でも後悔しているようです。
Aの発明品により感電で気を失った愛美を、小心者のBがプールに投げ入れたのが原因で愛美は死亡しました。
森口は二人を警察に突き出さない代わりに、二人の牛乳に今朝採取したばかりの桜宮正義の血液を混入したというのです。
【承】告白のあらすじ②森口がいなくなったその後のクラス
森口がいなくなってからのクラスについて、学級委員長である美月が手紙を綴りました。
森口の後任としてやってきた寺田義輝先生(以下ウェルテル)は、学校を休んでいた直樹について皆で話し合う時間を設けました。
このクラスでウェルテルだけが、あの事件のことを知らずにいたのです。
ウェルテルは美月と一緒に、直樹の家に寄せ書きや配布物などを届けにいきました。
その間、修哉に対する「制裁」が始まったのです。
ある日、「このクラスにはいじめがあります。」という告発がウェルテルにもとに届いたそうで、それが美月の仕業だと疑われます。
美月は修哉とともにいじめに遭いましたが、それによって二人の仲は深まりました。
修哉はその勢いのままクラスメイトに復讐し、いじめはなくなりました。
ウェルテルは喜び、配布物を届けるついでにそのことを直樹に話しました。(といっても、直接会ったわけではありません。)
その日の夜、直樹は母親を殺しました。
美月は森口に、「先生は、少年二人を自分が直接裁いたことを、今どう思っていますか?」と問いかけました。
【転】告白のあらすじ③下村直樹の真相
下村直樹の母親が殺されてから、直樹の姉が母親の日記を発見します。
直樹はあの事件に「巻き込まれて」から不登校になっていたようでした。
それに加えて異常な潔癖症になりましたが、自分の身体についてはとんでもなく不潔だったようです。
伸びきった髪を切ってしまえばなにか変わるのではないかと思い、母親は直樹が寝ている間に髪を切ってしまいました。
直樹はそれから吹っ切れた様子で、森口の手によってHIVウイルスを飲まされたことと、あの日あの子が自分の目の前で目を覚ましたことを話してくれました。
日記の最後は「私は直樹を連れて、みんなより一足先に、大好きだった父と母のところへ行きますね。」という一文で締められていました。
直樹はホームルームが終わってから、常にHIVの恐怖に怯えていました。
父と母に感染させてしまうと自分は生きていけないと思い、家では身の回りを異常なほど清潔に保ちました。
その一方で、自分の伸びきった髪や爪、垢やフケは生きているという証拠なので身体に残しておいたのです。
あの事件の日、友達だと思っていた修哉から「人間の失敗作」といわれて悔しい思いをした直樹は、目を覚ました愛美をプールに投げ入れました。
これで、修哉が失敗したことを自分が成功させたと思いたかったのです。
修哉も自分と同じように不登校になっていると思っていましたが、ウェルテルの訪問によって修哉が学校に行っていることを知りました。
その夜包丁を持った母親から「失敗してごめんね」と言われたことに逆上し、母親を殺害したのでした。
【結】告白のあらすじ④渡辺修哉の動機と失敗
渡辺修哉は幼い頃両親の離婚により、母親と離れて暮らしていました。
「厚生労働省・全国中高生乳製品促進運動」の審査員に母親が研究員として働いている大学の教授がいることに気付きました。
ここで賞を取れば母親が気付いてくれるかもしれないと思い、「電気が流れるポシェット」で見事賞を受賞しました。
しかし、翌日の新聞に大々的に掲載されていたのは、少女が青酸カリで家族を殺害したという「ルナシー事件」でした。
自分も殺人事件を起こせば大きく報道されると思い、森口の娘をターゲットにしたのです。
しかし、新聞に掲載された内容は「感電死」ではなく「溺死」でした。
一緒に犯行に及んだ下村直樹の仕業で、またもや母親へのアピールの機会を逃してしまったのでした。
いじめっ子たちに無理矢理美月とキスさせられた夜、美月のためにHIVウイルス陰性の証明書をみせました。
美月と仲良くなりましたが、彼女が「ルナシー事件」に憧れていることを知り、殺害しました。
あわよくば母親に会えないかと思い、勤め先であるK大学にいってみると、母親が再婚していることがわかりました。
渡辺修哉は学校に爆弾を仕掛け、またもや母親へのアピールを試みます。
しかし、その爆弾は森口悠子の手によって、K大学に移動させられていたのです。
告白の解説(考察)
「告白」のキーワードは「復讐」です。
愛美の母親である森口悠子は、一貫して加害者の二人に「復讐」を試みています。
まずはHIV感染者の桜宮正義先生の血液を牛乳に混入するという非人道的な手段をとりました。
そして、二人の犯人を警察に突き出すことなく、自らの手で裁いたことも復讐のひとつでしょう。
こどもの残虐さと、ウェルテルの情熱を利用したのです。
それによって追い詰められた二人の犯人は、自滅の道に進んでいきました。
実は牛乳への血液混入については、桜宮正義本人の手によって失敗に終わっていました。
しかし、桜宮正義に諭されても森口は復讐を諦めませんでした。
ついには自らの手によって、直接事件に関係ない渡辺修哉の母親を殺すことになってしまいました。
森口悠子は二人への復讐に気を取られ、自分自身も破滅の道に進んでいることに気付いていなかったのかもしれません。
告白の作者が伝えたかったことは?
湊かなえは「告白」で、復讐にとらわれた人間の末路と、二人の犯人のコンプレックスを描き出しています。
先述したとおり、森口悠子の尽きることのない復讐心は、人間の心をもなくしてしまうほど強い感情です。
子供のために自らの人生を捨ててでも、復讐を成し遂げようとしています。
それとは逆に、二人の犯人はそれぞれ親へのコンプレックスを抱いています。
母親に失敗作といわれ逆上した下村直樹、離婚により自分から離れていった母親を追いかける渡辺修哉。
「告白」で描かれるのは、幸福にも不幸にもなる親子の関係性ともいえますね。
告白の3つのポイント
ポイント①第一章「聖職者」
「告白」は、「聖職者」「殉職者」「慈愛者」「求道者」「信奉者」「伝道者」の6つの章で構成されています。
それぞれの章が異なる人物の視点で描かれているのが特徴です。
湊かなえは、この第一章「聖職者」だけで「小説推理新人賞」を受賞しています。
それだけ、ひとつひとつの章が読み応えのある作品ということですね。
ポイント②映画「告白」
「告白」は、松たか子さん主演で映画化されています。
小説同様に、少年犯罪などの過激な描写が存在するため、R15に指定されています。
映像で見ると、また違った楽しみ方ができそうですね。
ポイント③文庫本化特別インタビュー
「告白」の文庫本のうしろには、本作を映画化した中島哲也監督による特別インタビューが収録されています。
中島哲也監督は「告白」を読んでみて、それぞれの人物を信用して良いのか悪いのか迷ってしまい、どんどん収拾がつかなくなってしまったそうです。
中島哲也監督もまた、湊かなえの罠にはまってしまったようですね。
告白を読んだ読書感想
「告白」を初めて読んだとき、まず構成に衝撃を受けました。
スピーディーに登場人物が入れ替わっていき、全て読んだときに初めて謎が解けます。
しかし、最後にすっきり終わることは出来ませんでした。
なんとなく嫌な感情を残して読了した方は、わたしだけではないはずです。
湊かなえさんは「イヤミス」の女王として親しまれています。
読んだあと嫌な感じになるのに、何故か止められない。
そんな作品が生み出されるのが、これからも楽しみです。
告白のあらすじ・考察まとめ
「告白」では人間の復讐心と強い執着心が鮮やかに描かれています。
最終的な結果は殺害とまでいかなくとも、それぞれの人物に共感できる箇所を見つけてしまうのが、なんだか恐ろしいです。
強い感情に動かされた人間は、なにをするのかわかりません。
自分自身も、一体どうなってしまうのか不安になるような作品でした。