あなたは、一緒に住んでいる家族のことを本当の意味で理解できていますか?
夫婦関係や嫁姑問題、子供の教育についてなど、多くの場面ですれ違いは生じるものです。
近くにいるからこそ、相手の気持ちに気づくことができなくなるものですよね。
それを一緒に乗り越えていけるのか、はたまた共倒れになってしまうのか・・・。
今回紹介する「赤い指」はそんなことを考えさせる作品です。
この記事では、「赤い指」のあらすじやネタバレから感想・考察まで徹底的に解説していきます。
「赤い指」とは?
家族とは、いちばんの味方にも、いちばんの敵にもなり得る存在ですよね。
面倒くさいと思うことも多々ありますが、親子の縁は切ることができません。
今回ご紹介する「赤い指」では、認知症の祖母を抱えた家族が、ある事件を起こしてしまいます。
その罪を祖母に着せようとするのですが、そこには衝撃的なラストが待ち受けています。
作者名 |
東野圭吾 |
発売年 |
2006年 |
ジャンル |
現代文学 |
東野圭吾のプロフィール
東野圭吾 1958年生まれ
小学2年生で小峰元「アルキメデスは手を汚さない」を読み、推理小説に夢中になったそうです。
処女作は「アンドロイドは警告する」ですが、現在まで内容は公開されていません。
1985年に「放課後」で江戸川乱歩賞を授賞し、小説家としてデビューします。
1998年に発表した「秘密」で大ブレイクを果たし、推理小説やエッセイなどでその才能を開花させました。
東野圭吾の代表作
学園もの、推理小説、サスペンス、エッセイなど幅広いジャンルの作品を発表しています。
自身の経験を活かした作品も多いようです。
「容疑者Xの献身」や「さまよう刃」など映像化された作品も多く、多くの人に親しまれています。
デビュー初期の頃と作風の変化が大きく、読んでいて飽きない小説家です。
「赤い指」の主要登場人物
前原昭夫 |
物語の主人公です。面倒なことに関わらない主義です。 |
前原八重子 |
昭夫の妻です。夫には強く当たり、息子にはへりくだって生活しています。 |
前原直巳 |
昭夫の息子です。学校にはいっていますが、家ではゲームばかりしています。 |
前原政恵 |
昭夫の母親です。昭夫夫婦と同居を始めてから認知症を発症しました。 |
田島晴美 |
昭夫の妹です。政恵の世話をしに、前原家に通っています。 |
加賀 |
少女殺害の事件を追う刑事です。 |
松宮脩平 |
少女殺害の事件を追う刑事です。 |
「赤い指」の簡単なあらすじ
金曜日の残業中、前山昭夫の携帯電話に妻の八重子から着信がありました。
「とにかく早く帰ってきてほしい」とのことでした。
昭夫は面倒に思いながらも家に帰ると、家の庭に少女の遺体が置いてありました。
妻の八重子がいうには、息子の直巳が首を絞めて殺してしまったというのです。
肝心の直巳は部屋に閉じこもってゲームをしています。
昭夫と八重子は、少女の遺体を公園に捨てることに決めました。
昭夫が深夜に死体を運ぶ準備をしていると、家の前に人影が現れました。
どきりとしましたが、母親の政恵だとわかると安心しました。
政恵は認知症を発症しており、幼児退行を繰り返しているので、昭夫が誰なのかもわかっていない状態なのです。
昭夫は死体を近くの公園のトイレに捨てにいきましたが、少女の背中に庭の芝生がびっしりついていることに気がつきました。
昭夫は暗がりの中で必死に芝生を除去しましたが、完全に取り切れたのかわかりませんでした。
翌日から警察が家に訪問してくるようになり、昭夫と八重子は直巳を庇うことを諦めかけていました。
そこで、昭夫はあることを思い付いたのです。
昭夫と八重子は警察を家に呼びました。
そこで、認知症を発症している政恵が誤って少女を殺してしまったと、嘘の供述をしました。
しかし、警察が政恵を連行しようとしたところで昭夫は罪悪感に押しつぶされ、真実を告白しました。
そこで、昭夫の妹の晴美から、本当は政恵が認知症でないことを知らされたのです。
昭夫は床に頭をつけて、涙を流しました。
「赤い指」の起承転結
【起】「赤い指」のあらすじ①少女の死体をトイレに捨てる昭夫
金曜日の夜、残業をして帰ろうかと思っていた昭夫の携帯電話に妻の八重子から着信が入りました。
「どうやって説明していいのかわからないけど、大変なことになったのよ。早く帰ってきて。」
昭夫は面倒に思いましたが電話越しに妻の啜り泣く声が聞こえたので、とにかく家に帰ることにしました。
「あと、今夜は晴美さんにきて捕、連絡しておいて。」
昭夫は承諾し、妹の晴美に連絡を取りました。
家に帰ると、黒いゴミ袋が庭に置いてあり、その下には何かがあるようでした。
八重子の話によれば、息子の直巳が少女の首を絞めて殺害したらしいのです。
直巳は部屋に引きこもってゲームをしていました。
話をさせようとしても、「俺は知らない」の一点張りです。
八重子は「あの子も混乱しているのよ」と、こんな時でも息子の顔色を伺っています。
昭夫は自首させようと言いましたが、八重子は直巳の人生を守るために遺体をどこかに捨てたほうがいいと言い出しました。
昭夫は今まで家庭を顧みなかった罪悪感から、八重子の提案を受け入れます。
庭に放置されている少女の遺体を段ボールに詰め、自転車の荷台に乗せて近くの公園に運ぼうとしました。
そこに、昭夫の母親の政恵が現れました。
「明日、晴れるかなあ。遠足いけるかなあ。」
認知症を発症した政恵を家の中にいれ、昭夫は公園のトイレに向かいました。
少女を男子トイレの個室に置いたところで、遺体に庭の芝生がついていることに気がつきました。
昭夫はできる限りの芝生を取り除き、家に帰りました。
帰ってから八重子と無理やり夕食を食べ、次の日に備えました。
【承】「赤い指」のあらすじ②芝生を採取しにきた警察
朝になって、昭夫はパトカーの音に体を硬直させました。
ついに、警察が家に聞き込みに来ました。
まだ近所をしらみつぶしに訪問しているだけのようなので、昭夫と八重子は少女の写真を見せられても「知らない」と答えました。
加賀と松宮と名乗る2人の刑事は、帰り際に家の芝生の種類を尋ねてきましたが、それについても知らないと答えました。
その時ちょうど、政恵が出てきました。
手には手袋がはめられています。
それは、昨日昭夫が死体遺棄の時に使用したもので、少女の排泄物の匂いがついています。
政恵はふざけた様子で、加賀の目の前で手袋をフラフラと振って見せました。
昭夫は少し慌てながらも、政恵をなだめて部屋に戻るように言いました。
直巳は何をしているんだと思い八重子に尋ねましたが、「反省しているから部屋にこもっているのよ」と訳のわからない返事が返ってきます。
警察は一旦帰りましたが、のちに家の芝生を採取させてほしいとやってきました。
昭夫は渋々承諾し、その場を乗り切りました。
しかし、もう逃げ切ることはできないと思ったので、やはり直巳を自首させようと思いました。
その考えを、またもや八重子が否定します。
昭夫は、今まで何度か頭の中を巡った邪悪なアイデアを振り払い切ることが出来ず、八重子にそれを提案しました。
【転】「赤い指」のあらすじ③虚偽の自首
昭夫は加賀と松宮を家に呼びました。
そこで、実は少女を殺したのは政恵であると話しました。
幼児退行を繰り返す政恵のために購入したスーパープリンセスのフィギュアを見に、少女がよく家に来ていたことにしました。
政恵の動機は、フィギュアを壊されたからだということも話しました。
最初の捜査の時に嘘をついていたことを謝罪し、昭夫は自分が遺体を遺棄したことも認めました。
加賀と松宮は話を聞いた上で政恵に会いたいと言い出したので、政恵の部屋に案内しました。
すると、加賀は家から出て行き、松宮だけが部屋にのこって、直巳にも話を聞くことになりました。
直巳とも入念な打ち合わせをしていたのですが、松宮が思いのほかしつこく質問してきたので直巳は苛立ちを抑えられませんでした。
松宮はある程度聞き込みを行い、直巳を部屋に返したところで、家のインターホンが鳴りました。
そこには、加賀と晴美が立っていました。
【結】「赤い指」のあらすじ④政恵の赤い指に隠されたメッセージ
晴美は、加賀から母親が殺人事件を起こしたという話を聞いたらしく、政恵の近くに座りました。
本部の人間も到着したらしく、外には車が停まっていました。
すると、加賀が拘留所での暮らしについて話し始めました。
政恵が辛い思いをするだろうと話す加賀を見て、昭夫はあることに気がつきました。
「加賀という刑事には、嘘がバレている」
しかし、ここで折れれば今までの努力が台無しになってしまいます。
晴美は加賀に言われて、拘留所にもっていく政恵の荷物をまとめました。
そこには昔のアルバムや、昭夫の手作りネームプレートがついた杖がありました。
昭夫は耐えきれずに、ついに真実を打ち明けました。
加賀に言われて母親の指を見ると、指先が真っ赤に染まっています。
それは晴美の口紅で、事件以降は家に持ち込まれていませんでした。
つまり、政恵が少女を殺したのだとすれば、遺体に口紅がついていなければ辻褄が合わないのです。
さらに驚くべきは、そのアリバイ工作とも言える行動を、政恵自身が晴美に指示していたことでした。
政恵は、昭夫夫婦と同居するようになってからずっと、認知症になったふりをしていたのです。
「赤い指」の解説(考察)
この作品には、家族という小さなコミュニティで生きることの難しさが描かれています。
嫁姑問題はどの家庭でも少なからず存在します。
しかも同居となると、冷戦状態とはいきません。
表面上でのあからさまな確執が、夫の目に入るようになりますよね。
その夫も自分の立場を確立することが出来ずに、最終的にはどちらかの意見に流されてしまいます。
今回の場合は夫が妻に流されたことで、妻や息子と一緒に、母親に冷たい態度をとってしまったようです。
母親は家での居場所がなくなり、かといって1人で生活できる体でもないので、認知症になったふりをしました。
そして、自分だけの世界に引きこもってしまったのです。
そのことに気づいていたのは、昭夫の妹である晴美だけでした。
一緒に住んでいる家族ではなく、別居している娘だけにしか本当の姿を見せなかった政恵の姿に、胸が痛くなります。
「赤い指」の作者が伝えたかったことは?
人間の怠惰な心や、醜い利己主義を伝えたかったのだと思います。
昭夫は母親の介護や既に亡くなった父親の介護、そして自分の息子のいじめについて見て見ぬふりをしてきました。
挙句の果てには不倫に走り、育児に追われる妻を放置しました。
幸運にもそんな昭夫が、家族への罪滅ぼしをする機会がやってきたのです。
昭夫は自分を育ててくれた母親を、息子の身代わりとして警察に差し出そうとしました。
正常な意識を持ちながら、息子が自分を殺人犯にしようとするのを見ていた母親の気持ちは想像することもできません。
また、殺人を犯したにも関わらず自分は関係ないと主張する直巳の態度にも、落胆せざるを得ません。
父親からの無関心で育った直巳は、加害者であり、被害者でもあるかもしれません。
「赤い指」の3つのポイント
ポイント①加賀親子
「赤い指」には殺人事件と同時進行する物語があります。
加賀刑事と、癌で入院している父親の加賀隆正の親子関係です。
加賀刑事は隆正の見舞いに全く行かなかったようでしたが、入院中も将棋を通して父親とつながっていました。
家族の関わり方は、いろんな形があるということですね。
ポイント②芸能人もおすすめする「赤い指」
お笑い芸人のネプチューン名倉さんも、「赤い指」もファンだそうです。
母親がいつまでも息子を甘やかす様子がかなり頭にきたそう。
母親の愛は無償であるからこそ、考えなければいけないと語ります。
ポイント③テレビで特別ドラマ化
「新参者」加賀恭一郎シリーズのひとつである「赤い指」は、2010年にTBS系日曜劇場のスペシャルドラマとして放送されました。
時系列としては「新参者」の2年前の設定で、加賀や松宮との関係性も詳細に描かれています。
視聴率は15.4%と、かなり高くなっています。
小説に加えてテレビも、かなりのクオリティだったようですね。
「赤い指」を読んだ読書感想
これまで東野圭吾さんの作品を多く読んできましたが、これほど衝撃的な展開を迎える作品は初めてでした。
家族間に起きる小さな問題が山積みになっている昭夫の姿が、妙にリアルで、作品に引き込まれてしまいました。
自分が今まで逃げてきた問題の数々が、最悪な形で自分に返って来てしまった昭夫。
彼が最初から家族の一員として、それぞれと向き合っていれば起こることのなかった事件かもしれません。
息子の異常な性癖も、既に垣間見得ていたはずですが、昭夫も八重子も見て見ぬふりをしてきました。
小さな積み重ねが、いい意味でも悪い意味でも、確実に成果をあげるのです。
「赤い指」のあらすじ・考察まとめ
面倒なことから逃げていては、いつまでも問題は解決しません。
一時的に去った困難は、のちにさらに大きな困難を招きます。
自分の利益のためだけに行動することは、人に大きな絶望を与えます。
それが家族を裏切ることであれば、尚更です。
自分を育ててくれた親を裏切り、罪滅ぼしのためだけに殺人犯の息子を守ろうとした父親でしたが、最後の最後で踏みとどまりました。
自分の態度が変わっても、親の愛情は変わっていなかったことに気がつき、やっと自分の愚かさに気づいたのです。
私たちは家族という小さなコミュニティを築き、その中で信頼関係を保ちながら生きていかなければいけませんね。