「夜は短し歩けよ乙女」。読んだことはなくても、この印象的なタイトルを聞いたり、黒髪の乙女の横顔が描かれた表紙を見たりしたことがある方は多いのではないでしょうか。
私が、森見登美彦作品の中で一番最初に読んだ作品は、この作品でした。
「夜は短し歩けよ乙女」は、まさに森見作品の入門編とも言うべき作品で、作者が書くユーモアある世界観を一身に味わうことができます。
この記事では、そんな「夜は短し歩けよ乙女」のあらすじやネタバレから、感想・考察まで徹底的に解説していきます。
「夜は短し歩けよ乙女」とは?
この小説は、京都の街を舞台にして、主人公が想いを寄せる彼女に近付こうと様々な場面で奮闘する物語です。
物語は主人公目線と、彼女の目線の2つの目線で語られており、2人が体験した出来事が段々に近付いて重なっていく様子が面白く、読者を楽しませてくれます。
また、京都の実在する場所が物語の要として書かれており、読んだ後は思わず京都に行きたくなってしまいます。
作者名 |
森見登美彦 |
発売年 |
2006年 |
ジャンル |
恋愛ファンタジー小説 |
時代 |
現代 |
作者名のプロフィール
森見登美彦(もりみ・とみひこ)
1979年、奈良県生まれ。
京都大学農学部を卒業し、その後大学院で農学研究科の修士課程を修了しています。
2003年、在学中に執筆した「太陽の塔」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビューしました。
大学院を修了後は、国立国会図書館に勤務しながら執筆をしていた経歴があります。
そして2007年には、今回紹介する「夜は短し歩けよ乙女」で山本周五郎賞を受賞しました。
作者名の代表作
主な作品は、「夜は短し歩けよ乙女」をはじめ、「四畳半神話体系」「有頂天家族」「夜行」「熱帯」などです。
ジャンルとしては、ファンタジーやホラーです。
京都が舞台となっているものが多く、作者の母校である京大もたびたび作品中に登場します。
そういった作品は、作者の京都生活時代の体験がもととなっています。
独特の言葉選びがされた語り口で、男子学生の日常をユーモラスかつ赤裸々に描く作風は、作者が書く作品の特徴のひとつと言えます。
夜は短し歩けよ乙女の主要登場人物
私 |
主人公。クラブの後輩である”彼女”に想いを寄せ、親しくなるチャンスを得ようと彼女のゆく先々で奮闘する。 |
彼女 |
主人公のクラブの後輩。短く切りそろえた黒髪が特徴。お酒が好きでよく飲み、とても好奇心が旺盛な大学一回生。 |
東堂 |
彼女がバー「月面歩行」で出会った中年の男性。錦鯉を育てて販売しているが、竜巻の被害のために商売が行き詰っている。 |
羽貫さん |
お酒を鯨飲する美人な女性。歯科衛生士をしている。先斗町で、彼女が東堂に絡まれているところを助けてくれた人物。 |
樋口さん |
羽貫さんの連れの男性。職業は天狗をしているという不思議な人物。京都の街の噂に詳しく、彼女に色々な事を教えてくれる。 |
古本市の神 |
古本市に現れた不思議な美少年。それは仮の姿で、真の姿は古本市の神様。ジュンパイロという風邪薬を作ることができる。 |
李白さん |
木屋町先斗町界隈では有名なお金持ち。底抜けにお酒を飲み、人々に偽電気ブランを振舞って果てしなく遊んでいるらしい。 |
パンツ総番長 |
恋した女性に再び会えるまで、パンツを脱がないと吉田神社に願掛けしたという人物。そのため、パンツ総番長と呼ばれる。 |
夜は短し歩けよ乙女の簡単なあらすじ
主人公は、クラブの後輩である“彼女”に想いを寄せていますが、彼女となかなか親しくなれずにいました。
主人公は、夜の先斗町で、古本市で、大学の学園祭で、なんとか彼女に近付こうと奮闘します。しかし、恋は思うように進展しません。
そんな中、京都中で風邪が大流行し、主人公ももれなくその流行風邪にかかってしまいます。
紆余曲折あり、主人公はお見舞いに来てくれた彼女に、はじめて「風邪が治ったら一緒に出掛けよう」と誘うことができたのでした。
夜は短し歩けよ乙女の起承転結
【起】夜は短し歩けよ乙女のあらすじ①先斗町の夜
主人公は、大学のクラブの後輩に一目惚れし、思いを寄せていますが、なかなか彼女と親しくなる機会を持てずにいました。
五月の終わり、クラブのOBの結婚祝いに参加すると、そこには彼女の姿もありました。
その会では彼女と話すことができませんでしたが、この機会を逃してはならないと思い、二次会へは行かずに、どこかへ向かおうとする彼女を追うことにしました。
一方、彼女は結婚祝いの席で、なぜか猛烈にお酒が飲みたくなり、その思いのまま三条木屋町のバー「月面歩行」に来ていました。
ひとりで好きなだけお酒を飲んでいると、男性に声を掛けられます。
その男性は東堂といい、錦鯉を育てて生計を立てています。しかし今年は様々な災厄に見舞われてしまったそうです。
竜巻の被害を受けて、商いの要である鯉たちまでも失い、商売は完全に行き詰まってしまいました。
東堂は彼女に、偽電気ブランというお酒の話をします。彼女は非常に興味深く思い、ぜひ飲んでみたいと思うのでした。
東堂が酔って彼女の胸に触れてきたところに、
「コラ東堂」
とひとりの女性が声を掛けきて東堂を追い払ってくれました。
彼女はその女性と一緒に飲むことに。女性は連れの男性も彼女のとなりに呼びました。
その二人組は女性が羽貫さん、男性が樋口さんといいました。
二人に誘われて、「詭弁論部」というサークルの宴や、還暦祝いの席にもぐりこんで、次々にお酒を飲んでいきました。
そうしているうちに、やけになった東堂が売ろうとしていた自分のコレクションの春画を破り捨てて叫んでいるところに出くわします。
東堂に無礼を働かれた彼女でしたが、
「諦めてはなりません」
と東堂を必死に説得しようとします。
そこへ東堂が借金をしている、木屋町先斗町界隈では有名な人物の李白という老人が現れます。
そして、彼女は東堂を救うため、借金をかけて李白さんと偽電気ブランの飲み比べをすることにします。
勝負は見事、彼女の勝利。東堂は九死に一生を得ます。
そうして彼女は、今日体験した夜のことを考えながら帰路につきました。
そして、飲み比べの際に李白さんが言っていた言葉を思い返して、
「夜は短し、歩けよ乙女。」
とつぶやいたのでした。
【承】夜は短し歩けよ乙女のあらすじ②古本市での奮闘
お盆休みにあたる八月のある日、主人公は毎年下鴨神社で行われる「下鴨納涼古本まつり」にやって来ていました。
主人公は実のところ、古本まつりが苦手でしたが、彼女が古本市に行くと聞いたため、行くことにしたのでした。
主人公が彼女の姿を探しながら、たくさんの古本のなかを歩いていると、ひとりの少年にぶつかってしまいます。
少年は年の割にませていて賢く、ぶつかってダメにしてしまったソフトクリームを
「 弁償してもらうぞ」と主人公に要求してきました。主人公は仕方なく、彼女を探すのを一旦中断し、少年の要求に応えることに。
一方の彼女は、初めて来た古本市の中を意気揚々と歩いていると、樋口さんに会います。
樋口さんは彼女に、「古本市の神」の話をします。
「古本市の神は、古本の世界で起こるありとあらゆる不思議を統べる。意中の本との幸福な出会いを助け、古本を介して男女の仲を取り持ち、古本屋のためにドラマチックな大商いを演出する。」
と樋口さんは言いました。
その頃主人公は、ソフトクリームを買ってあげてからも少年に付きまとわれて迷惑していました。
しかしその少年から、彼女が「ラ・タ・タ・タム」という汽車の絵本を探しているという情報を得ます。
そしてひょんなことから、主人公は李白さん主催の、本の売り立て会に参加することに。
会に参加すべく、怪しい古書店を抜けて会場に向かうと、そこは灼熱の暑さ。
その中で、燃えるような辛さの火鍋を最後まで食べ続けられた者一人だけが、欲しい本を一冊、手に入れることができるといいます。
出品された本の中に、彼女が探している「ラ・タ・タ・タム」の絵本を見つけた主人公は、死をもかいくぐるような試練を必死の思いで勝ち抜きました。
しかし、そこに先程の少年が現れ、高らかに宣言しました。
「 時に残酷に、神は古本を世に解き放つ。不心得の蒐集家たちは畏れるがよい!」
主人公が見ると、出品された本たちがすべて消え去っていたのでした。少年はなんと、古本市の神であったのです。
古本市の神によって再び解放された「ラ・タ・タ・タム」の本を求めて、主人公は絵本コーナーに向かいました。
そして、偶然探していた本を見つけた彼女と同時に「ラ・タ・タ・タム」の本に手を伸ばしました。
主人公はその偶然に驚いてしまい、百面相をしながらやっとの思いで
「ほら!」「早く買わんと!」
と言ってその場を立ち去ってしまうのでした。
主人公が本を譲ってくれたと思った彼女は、何か埋め合わせをしようと思って主人公の後を追いました。そうして主人公は、自分の後を追ってきた彼女と言葉を交わすことができたのでした。
【転】夜は短し歩けよ乙女のあらすじ③文化祭での奮闘と、恋の進展
古本市から季節が流れた晩秋のこと。主人公が通う大学では学園祭が開かれていました。
珍しく、主人公も参加することにしました。目当ては言うまでもなく、彼女でした。
その頃主人公は、なんとか彼女の眼中に入ろうとして、「ナカメ作戦」(「なるべく彼女の目にとまる作戦」)と名付けた作戦を実行し、日々奮闘していました。
偶然を装って彼女が居そうな場所に行き、運よく彼女に出会えたときには、
「ま、たまたま通りかかったもんだから」
という台詞を繰り返す主人公に、彼女は全く気付いていない様子です。そして決まって、
「あ!先輩、奇遇ですねえ!」
と言うのでした。
そうして彼女の外堀を埋めてばかりの主人公。進展を見せたいと思いつつ、彼女に対しての慎重な態度を崩せないでいました。
そうとは知らず、彼女は持ち前の天真爛漫さを発揮しつつ学園祭を満喫していました。
射的で見事命中させた大きな緋鯉のぬいぐるみを背中に背負い、豆乳鍋を振舞いながらあちこちを移動する「韋駄天コタツ」に出会い、そこで「恋が叶うまでパンツを脱がない」と吉田神社に願掛けをした「パンツ総番長」と呼ばれる男子学生に出会い、象のお尻を手触りまで忠実に再現した「象の尻」という出し物に感動していました。
すると突然、神出鬼没に現れて演劇を行うゲリラ演劇「偏屈王」のヒロイン、「プリンセス・ダルマ」の代役を頼まれます。彼女は、自信はなかったものの、
初めての学園祭で通りすがりに大役を任されたのも何かの御縁
と思い、役を引き受けることに。見事役を演じ切り、その後も終幕までプリンセス・ダルマを演じていくのでした。
その頃、主人公は彼女を探して学園祭をさまよっていました。
緋鯉を背負っていて何しろ目立つ彼女でしたので、目撃情報はあるものの、肝心の彼女にはなかなか会うことができずにいました。
そうしていると、ゲリラ演劇「偏屈王」の最終幕の予告が目に入りました。
見ると、ヒロインの女優が交代しており、なんと彼女が新プリンセス・ダルマとして紹介されていたのです。
「俺の知らないうちに何か大変な事態になっている!」
と慌てて彼女を探します。
そして、友である学園祭事務局長を出し抜き、彼女と思って別人を追いかけ、屋上から落ちて走馬灯を見たりしながら、彼女がヒロインを務める「偏屈王」最終幕の会場へとなんとかたどり着きます。
偏屈王を演じようと開演を待っていたパンツ総番長に成り代わり、主人公は彼女と共に偏屈王を演じきりました。
終演後、偏屈王をめぐったパンツ総番長の恋が実る瞬間を目撃した主人公は、思わず涙ぐんでしまいます。
その様子を見た彼女は、「この人はたいへん良い人だなあ」と思い、主人公の知らぬところで恋が少し、進展したのでした。
【結】夜は短し歩けよ乙女のあらすじ④李白風邪と、恋路の一歩
師走に入った頃、京都の街で風邪が大流行します。
彼女は風邪にかからず元気だったので、今まで出会った人たちをお見舞いして回りました。
お見舞いに行った東堂の話から、大流行しているこの風邪の元は李白さんだということを知ります。
これは自分がお見舞いに行かなくては、と彼女が使命感に駆られている頃、主人公はもれなく流行風邪にかかって、息も絶え絶えの状態でした。
床にふせりながら、主人公は彼女のことを考えます。
熱に浮かされているなかで、彼女に想いを告げたいと言う主人公に、頭の中の自分たちが次々と罵詈雑言を浴びせてきます。しかし主人公が、
「このまま彼女に想いを打ち明けることもなく、ひとりぼっちで明日死んでも悔いはないと言える者がいるか。もしいるならば一歩前へ!」
と叫ぶと、罵倒していたもう一人の自分たちは静まり返ったのでした。
そこで目を覚ました主人公でしたが、風邪で動くことができない今はどうしようもない、と思うのでした。
その頃彼女は、李白さんのお見舞いに行くべく、風邪に効きそうなものはなんでもリュックに詰め込んで、李白さんのもとへ向かいました。
李白さんの三階建て列車は下鴨神社にありました。李白さんのひどい風邪の影響で、あたりは暴風が吹き荒れています。
やっとの思いで李白さんのもとにたどり着くと、李白さんの顔はひどく蒼白く、
「儂はもう、死んじゃうよ」
と言います。
彼女は古本市の少年に貰った「ジュンパイロ」という、どんな風邪もたちどころに治る風邪薬を舐めさせます。
そのおかげで、李白さんは元気を取り戻します。しかし、李白さんが急に大きく息を吸い込み、風邪を追い出すように咳をしました。
すると、李白さんが追い出した風邪は暴風となって彼女を吹き飛ばしてしまいます。
主人公はその時、夢の中で街の上空を漂っていました。
そうしていると、ふいに暴風に吹き上げられて来る彼女を見ます。
主人公は暴風から彼女を救うべく、彼女の手を取りました。彼女と主人公は、
「奇遇ですね」
「たまたま通りかかったものだから」
と言い合います。
主人公が夢から覚めると、彼女が主人公の手を握ってちょこんと座っています。
主人公は驚いて
「君はなぜこんなところへ?」
と言うと、彼女は、
「先輩が連れてきて下さったのではないですか」
と主人公を見つめて言います。そんな彼女を見て主人公は、
「李白さんの風邪が治ったら、二人で一緒にお祝いに行こう」
と誘います。すると彼女は、
「ご一緒します」
と笑ったのでした。
そして、李白さんの快気祝いの日、二人は李白さんのもとへ行く前に、「進々堂」という喫茶店で珈琲を飲むことにします。
やっと、彼女との恋路を一歩踏み出すことができた主人公は、今まで彼女を求めて奮闘した日々も、
人事を尽くして、天命をまて。
ということだったのだと思いました。そして彼女は、進々堂で自分に気づいて、笑って頭を下げる主人公を見て、
こうして出逢ったのも、何かの御縁。
と呟くのでした。
夜は短し歩けよ乙女の解説(考察)
第一章に登場する、彼女が飲み歩いた三条木屋町の先斗町は、京都五花街のひとつです。
芸舞妓さんがいる茶屋や、居酒屋などが軒を連ね、昔ながらの建物が残る風情ある通りです。
東堂と出会ったバーである「月面歩行」は、実在するバー「bar moon walk」がモデルとなっています。
また、第三章で学園祭の場面が出てきますが、これは作者の出身校である京都大学の「11月祭」が基となっています。
作中で、ゲリラ演劇や、象の尻や、韋駄天コタツなど変わった学園祭の雰囲気が彼女を楽しませていましたが、京大の文化祭は実際も変わった出し物をしていることで有名です。
一般公開もおこなっているので、行ってみると夜は短し歩けよ乙女の一場面を感じることができるかもしれません。
夜は短し歩けよ乙女の作者が伝えたかったことは?
最後に主人公が言った、「人事を尽くして、天命をまて。」という言葉に、この作品で作者が伝えたかったことが詰まっていると思いました。
主人公は物語の中で、想い人である彼女になんとか近付こうと奮闘しますが、なかなか恋が成就する気配が無く、自分の努力はすべて無駄なものだと思ってしまいます。
しかし、実は起こした行動の数々のおかげで、主人公が知らないところで、彼女が主人公のことを気にするようになっていたのです。
作者は物語を通して、努力はすべて無駄にならないと、「人事を尽くして天命を待つ」ことの意義を伝えたかったのではないでしょうか。
夜は短し歩けよ乙女の3つのポイント
ポイント①電気ブランと偽電気ブラン
作中で登場するお酒、「偽電気ブラン」のもととなった「電気ブラン」は、浅草にある神谷バー発祥のカクテルです。
「電気ブラン」という変わった名前は、電気がまだ珍しかった明治の頃、目新しいものに
”電気〇〇〇”と名付けると人々の関心が集まったことと、45度という電気ブランのアルコール度数の高さが電気のイメージと重なったことから、その名が付けられたと言います。
電気ブランのベースはブランデーで、そのほかにジン、ワイン、キュラソー、薬草などがブレンドされています。
しかし、配合の割合だけは未だに秘伝となっている謎のお酒でもあります。
ポイント②下鴨納涼古本まつり
古本まつりは、毎年お盆の時期に、世界遺産である下鴨神社の糺の森で開催されます。
京都、大阪、兵庫、奈良と関西近郊の古書店が総数約80万冊の古本を出品する大規模な本の催しとなっています。
この下鴨納涼古本まつりは、作者の他作品「四畳半神話体系」にも物語の重要な場面として登場していて、作者もこの催しに好んで足を運んでいたことがうかがえます。
ポイント③劇場版アニメ「夜は短し歩けよ乙女」
「夜は短し歩けよ乙女」は、2017年に劇場版アニメ化されています。
主人公の声優を、シンガーソングライターの星野源さんが務めたことで話題を呼びました。
監督・脚本は、作者の映像化作品を多く手掛ける湯浅政明と上田誠です。
物語の大筋は守りつつ、原作小説とは違った描き方が面白く、原作を読んだあとにみると、「夜は短し歩けよ乙女」を2倍楽しむことができます。
夜は短し歩けよ乙女を読んだ読書感想
「おともだちパンチ」「偽電気ブラン」「ラ・タ・タ・タム」「ナカメ作戦」「パンツ総番長」など、作中に登場する言葉を並べただけで、どの作品のことか分かってしまう本は少ないと思います。
作者の他作品にも言えることですが、考え抜かれたユーモア溢れる言葉たちが、他の作家さんとは違う文章のリズム、世界観を作り出していて終始飽きることなく読むことができます。
そして、主人公が想い、外堀を埋め続けた彼女の描き方がとても魅力的です。
かわいくて清楚な、正統派のヒロインとは違い、彼女はかわいらしくも破天荒で、とても天然な女の子です。
ですが、そんな彼女だからこそ、知らず知らずのうちに様々な場面で物語の主人公となり、華を添えてくれます。
また、そんな魅力ある彼女の活躍に振り回されつつも、必死に恋を実らせるため行動する主人公には、すべての恋に悩む男子、女子たちの背中を明るく押してくれる力がある、そんな物語だと思いました。
夜は短し歩けよ乙女のあらすじ・考察まとめ
この作品は、主人公が恋のためにひたすら奮闘していく物語を通して、努力は無駄にならないと教えてくれます。
また、彼女が偶然出会った人達との縁を「これも何かの御縁」、と思って大事にしている姿勢から、人との関わりにおいて大切なことにも気付かさせてくれます。
終始ユーモアある文章で読者を楽しませながらも、読了後は爽やかな印象が残る、そんな素敵な作品だと思いました。
恋でも、夢でも、やりたい事でも、きっとこの物語は、あなたの背中を押してくれるでしょう。